じゃれつき遊び

子どもたちは大人にじゃれつくのが好きです。幼稚園では、毎朝正門で「おはようございます」と子どもたちと挨拶をします。正門のところに立っていると、必ず外遊びに出てきた子どもたちがじゃれついてきます。私によじ登ろうとする子、足にしがみつく子、様々です。私が体をゆすったりして動くたびに「キャー」と歓声をあげます。
じゃれつき遊びは大事な遊びの一つです。スキンシップという意味でも、身体の発達、運動能力の発達、そして精神の発達においても大きな力を持つ遊びです。幼児期のこれらの発達に、「手指」運動が良いということはご存知の方も多いと思います。指先を使うことは、脳に大量の刺激を与えます。しかし、もう一つ幼児期に大事なのが、「腕脚」の運動です。
日本体育大学名誉教授であった正木健雄先生(故人)が、「脳を鍛えるじゃれつき遊び」(小学館)という著書で、「じゃれつき遊び」を詳しく解説されています。
先生は、じゃれつき遊びを保育の中に意識して取り入れている幼稚園の先生方の証言として、じゃれつき遊びが一番子どもたちの「目がキラリと光る」という言葉を紹介しています。正木先生は「目がキラリと光る」のは、大脳の前頭葉がとても働いている時の現象だと言われています。正木先生は何年もじゃれつき遊びをした子どもたちの前頭葉の働きを調査されました。その結果は予想を超えるものだったそうです。
通常、幼児期の子どもの遊びは「興奮」に傾きます。前頭葉の発達の順序が「興奮」を発達させることが先行するからです。幼い子どもが興奮すると収まらなくなるのは、実は成長過程としては当然のことなのです。その後、幼児期を超えて、青年期まで時間をかけて興奮を抑える「抑制」を発達させていきます。ところが、じゃれつき遊びをする子どもたちの前頭葉では、興奮を発達させるだけでなく、抑制の強さも一緒に発達させていることが分かりました。これは「大人」の脳に近い活動がされていたということです。
じゃれつき遊びによって興奮と抑制の両方がバランスよく刺激された後、何が子どもたちにもたらされるでしょうか。それは極めて高い「集中」です。
正木先生は、じゃれつき遊びは直ちに子どもたちを賢くする遊びではないが、この遊びで育った子どもは素晴らしい集中力が育てられると言われます。それは幼児期を超えた向こうに広がる少年青年時代の学習と体験の野で本物の力を発揮します。
じゃれつき遊びをする子どもは夢中で、何度も同じことをするように要求します。心から満足して「あー、疲れた!」とキラキラした顔で言うまでやめようとしません。大変ですが、おすもうやレスリングのような「腕脚」を動かし、刺激を得るじゃれつき遊びは、子どもたちにとってあらゆる意味で最高の遊びの一つなのです。

2019年05月24日