真似しないということ

真似が発達すると、「真似しない」という学習ができるようになります。ある子が過ったことをしたときに、一緒になって繰り返してそれを真似する子がいますが、一方で先生に注意されている子を見て、同じ過ちはしないようにしようと構える子がいます。真似をするのとは逆のことです。恐らく、子どもたちの幼児期以降の育ちと今後の社会生活においてより重要なのは、「真似しない」ということの方でしょう。
 幼稚園の子どもたちでもテレビで報道された不正事件や凶悪犯罪のことを覚えています。その時に、「真似をしてはいけない」という啓発をしっかりと受け止めることが大事です。「真似しない」という選択を始めた子たちは、善悪の感覚も鋭敏になってきます。たとえ親や先生であっても、誤っていたら容赦なく指摘してきます。これは「真似してはいけない」という意識が発達しているからでしょう。口うるさい子は、大事な学習をしているのです。
牧師でテノール歌手、そしてカウンセラーとしても活動されている、うどにしつとむさんによると、人には大きく分けて三つの生き方があるのだそうです(参考 日本講演新聞2817号)。
 まずは「製品的人生」。これは、たとえばフランチャイズのハンバーガーの味がどの店でも変わらないように、「みんなと同じように生きたい」というものです。これが「真似する」ことによって作られる生き方です。良い点は、最短距離で目標とする事柄に到達できる可能性が高い点です。また、社会規範や感情理解という点では皆が違う基準を持つというのは好ましくない事態を招きます。重要な生き方の選択の一つです。悪い点は、自分自身の行動について自主自立と責任感を欠きやすいということでしょう。言い換えるとコントロールされやすいのです。「みんなやっている」という無意味な理由に流されます。
 次に「商品的人生」。これは、相手から受け入れられることに価値を置く生き方です。でも、すべての人に完全に好かれる人なんていません。だから「ある程度は嫌われて仕方がない」と思うことが大切です。相手の要求に応えることばかり考えていると心が疲れてしまいます。無駄と思えることも多いことでしょう。そこで力を発揮するのが「真似しない」という選択を持った学習です。「真似しない」ことが、人格と人生を守る砦となり、また挑むと決めた人生の課題へ向かわせます。
 三つ目は「作品的人生」。これは「誰とも同じではない、私だけのオンリー・ワンの人生」です。この「作品的人生」を生きる秘訣は自己受容です。育ってきた背景や歴史、性格さえもすべて「今の私をつくるのに必要だった」と受け入れることが大切です。「真似する」と「真似しない」を自在に生きる先に見えてくる、一流の人間の姿ではないかと思います。

2020年01月17日