今しかないから、逃がさない

子どもに注意を促す時に、「前にも言ったでしょ」という言葉を、大人は頻繁に言います。しかし、その度に子どもは初めて聞いたような顔をします。別に誤魔化しているのではなく、本当に前に言われた過去が彼らにとって存在していないのです。なぜなら、それは彼らにとって何度言われてもまた繰り返してしまう程度に、意味を感じない時だったからです。
時には、カイロス(意味を持つ時)とクロノス(時計的な時間)という大きく分けて二つの観念があります。子どもにとっては圧倒的にカイロスが大事です。叱ったり、注意をするときには、カイロスとなるように工夫しないと子どもにとって「無かったこと」になってしまうのです。昔を思い出してため息をつく大人から見ると、ある意味羨ましい、実に自分の都合に忠実な時を重ねて「今」に至っているのです。
ただし、この子ども時間の特徴は、意味を持つ「今」しかないので、「今」を「未来」へと繋げて行くことが苦手だということです。「いつも言ってるでしょう」、「何度言ったら分かるの」「またやったの?!」と過去を持ち出しても伝わらないように、「もう二度とやったらだめだよ」「今度やったらゆるさないよ」という言葉も、「今できないと後で困るよ」、「小学校に行ったら、自分でやらないといけないんだよ」等の言葉も、未来につなげて行くことが苦手なので通じません。「今」しかないのです。
ですから、注意したり叱る時に最大の効果を期待するならば(その後も繰り返す必要が多いのですが)、その場で、スグに、です。後から叱っても、「そんな昔のことは知らない」ので、効果がありません。何か注意したり、叱らなければならないときには、その瞬間が勝負どころです。そこで、子どもにとってその時をカイロス(意味ある時)とすることが大事なのです。
勿論、衝動的に叱るということではありません。それでは怒りをぶつけてしまうことになります。大人の方は、瞬間を活用するために、「現行犯」を見逃さない心構えを前もってしておくことです。

2020年01月31日