幼児の自己中心性

ジャン・ピアジェは、20世紀スイスの心理学者で、認知発達や発達心理学の分野で最も影響力のある功績を残した心理学者です。現代でも彼の研究を検証し続けているといってもいいくらいでしょう。
彼の研究の一つに、幼児期の自己中心性に関するものがあります。自己中心性とは、いわゆる「ジコチュー」という性格のことではなく、自分以外の視点を持っていないことを言います。自分以外の視点が存在することがわからないために、周囲の人間も自分と同じように世界を知覚していると思っている状態のことです。およそ7歳以前の子どもは自分の視点が中心にあると言います。そして自分の視点で着目した特徴に執着します。
最近では、脳科学の発達もあり、様々な角度からピアジェが「幼児期の自己中心性」と呼んだものを検証しています。それらの研究では、おおむね7歳以降のかなりの年齢になっても自己中心性は私たちの中に残り続けるとされています。中には一生の間、自己中心性は私たちに重大な影響を与え続けるという主張もあります。つまり、人間の心理は完全な客観性を獲得することができないというのです。
私は心理学者でも脳科学者でもありませんから、これ以上の専門的な議論には踏み込めません。しかし「幼児期の自己中心性」が幼児教育の様々な取り組みに深く関わることは予想できると思います。
例えば、幼稚園の子どもたちが文字に興味を持つと、まずほとんどの子が「鏡文字」を書きます。器用な左右をひっくり返した文字です。これは、文字を書いている人を正面から見ていることを意味しています。子どもの視点からは、文字は鏡写しに逆に見えるのです。「幼児期の自己中心性」からは、子ども視点に合わせて見せることが必要になります。つまり正面ではなく隣で、さらに手を添えて一緒に動かせば、視点を合わせることができて、子どもはより理解しやすい環境を得ます。
ちょっとしたことですが、子どもの視点は自己中心的であることを前提にできると、子どもの行動や理解について、見守りや協力の際の工夫の仕方が見いだしやすくなると思います。

2020年02月14日