子どもの質問に答えるべきか

子どもは、大人はどんなことを聞いても正しい答えを即座に出してくれる完璧な人間だと思っています。幼稚園でも、「園長先生なら分かるはず」という迷信があって、教師たちも答えに困ると、「じゃあ、園長先生に聞いてみようか」となることがあります。
「これは何?」、「どうして?」「なんで?」と尋ねてくる子に、私はつたない知識を絞り出して子どもの疑問に答えようとして頭をひねります。専門用語では子どもには通じないので、分かりやすく説明しようとすると、こんどは話が長くなって子どもが飽きてしまいます。
子どもが好奇心旺盛なことは素晴らしいことです。ですから、大人は何とか知識を伝えようとします。しかし限度があります。
「子どもの疑問にどうやって答えればいいのか」、というのはテクニックを問うことです。古くは「子ども電話相談」がありましたが、現代は様々なコンテンツで子どもの疑問に巧みに答えを提供してくれるものが多くあります。
一方で、子どもの疑問に逐一答えていると、「答えは尋ねれば教えてもらえる」という思い込みが強化されてしまいます。「知らないことは尋ねれば教えてもらえる」というアプローチも大事なのですが、そこから次のステップへと子どもを向かわせるきっかけにすることは、それ以上に大事です。
「なぜ?」と尋ねてきたら、「なぜだと思う?」と聞いてみてください。実は子ども自身が答えを知っていることもあります。全く分かっていない場合でも、「なぜだと思う?」と尋ねることで、疑問から、思考実験へと子どもを誘うことができます。
子どもにとって自分の手足を使っての試行錯誤と共に、実際に動かさず、目にすることなく、今ある知識を動員して思考の中で論理を積んでいくということも、大事な経験です。
子どもの疑問に対して、答えを提供するのではなく、疑問への「取り組み方」、「思考の立て方」、「思考の組み合わせ方」をもって応答するのです。それは子どもと一緒に疑問に取り組むということです。
これは「この花の名前は何?」といったことでも「調べ方」に一緒に取り組むことができます。文字をまだ多く読めない子どもに、図鑑を一緒に開きながら、「今は春だね?」、「何月だっけ?」、「それじゃあ、3月のお花のページを開けてみようか」、「その花は何色?」、「大きいお花?小さいお花?」、「葉っぱの形をよく見てみようか?」と一緒に探せば、「図鑑で花を調べる方法」をやがて子どもは取得します。図鑑を一緒にめくっていく中で、小さな「その他」の知識も子どもは得ることができます。
子どもにある程度の知識が蓄えられてきたら、子どもが受け身となってしまう「疑問と答え」を、子どもが積極的に取り組む試行錯誤へと導くきっかけにする方が大事になります。

2020年03月16日