思いやりは喜びから

「思いやり」という相手に共感する感情は、人間が社会生活を他人と一緒に幸福に生きていこうとするならば、極めて重要な感情です。一般に、思いやりは幼いころから思いやられて育ってきたことが不可欠な前提だと言われます。思いやられるとは、具体的には喜びを与えられるということです。そのために喜ばせてもらう機会や時間が多いことが大切です。重要なのは、喜びの体験の重さや深さよりも、機会や時間といった「量」を必要とするということです。

発達心理学者の観察によると、母親に喜びを与えてくれることを要求する子どもは、同時に、母親自身も喜びを感じてほしいという高度な感情を抱いていくそうです。

人は、大事な人と喜びを一緒に体験したいと求めるのです。相手と一緒に喜びあうことが、より深い喜びとなるという経験を重ねていくと、やがて相手と悲しみを分かち合うことのできる「思いやり」の感情が芽生えてきます。そして、喜びと悲しみを共有することによって人間的なコミュニケーションが成立発展していきます。「思いやり」は、相手と悲しみすらも分かち合って生きることができる社会構築のための高度なコミュニケーションの土台となるものです。それは実は、最も身近な人と喜びを分かち合う経験が十分にあってこそ生まれ、育っていくのです。

このことを親の側から見ると、親自身が子育ての中で喜びを実感することが、子どもの中に「思いやり」を育てるということになります。

佐々木正美先生(児童精神科医)は、親自身が子どもに喜びを与えるということについて、「まず子どもが喜ぶことを何でもしっておかなくてはいけないでしょう。そして、そのうちのどんなことに、自分も喜びを感じながら行動できるかを、自然に無理なく見いだして、実行すればいいのです。親自身も喜ぶことができる活動なら、困難や苦痛があるはずありません」(佐々木正美著『はじまりは愛着から』福音館)と言われています。食事やおやつ、入浴など毎日の繰り返しの中に、素晴らしい時間があります。

最後に「思いやり」を育てる中で最も避けなければならないのは、子どもの「自尊心」を傷つけないことです。悲しむ子どもを決してからかってはいけません。悲しむ子にかける言葉がないのなら、黙って一緒にいることでも慰めになれるのが「親」という尊い存在です。

2018年10月01日