”子どものケンカ”という学び

かつて、子どもの成長は親や家庭で決まると言われていました。しかし、子どもは親や家庭だけでなく、その他の集団の中で自ら学び、世界から様々な影響を受けています。その中で、特に年齢の近い子ども同士は、互いに大きな影響を与え合っています。

白梅学園大学の増田修治先生(臨床教育学)は、3歳から小学校低学年くらいまでに経験するケンカの体験は重要だといいます。

子どもは泣いたり泣かされたり、手を出したり出されたりして、心や体の痛みを通して力加減を学びます。ケンカを経験しないままで相手の体を損なえるほどの力を得る年齢になると、力加減が分からず、相手に大けがを負わせることになるかもしれません。重犯罪に繋がることもあります。

ケンカを無秩序な暴力ではなく、ルールと教育の下で経験させ、「仲直り」を経た新しい人間関係を形づくるためにはどうすればいいでしょうか。

まず、「守るべきルール」は明確に伝える必要があります。「首から上は叩かない」、「噛まない」、「爪を立てない」、「物で叩かない」、「物を投げない」といった、相手に一生残る傷を負わせることのないように、理解させる必要があります。子ども自身に、暴力を振るうリスクを理解させる必要があります。

それは言葉も同じです。相手の克服できないコンプレックスを責めることを禁じます。それは相手の心に傷を残し、「仲直り」の可能性を著しく損なうリスクを理解させます。

次に、ケンカそのものを考えてみます。ケンカとは暴力を指すのではなく、「互いの主張のぶつかり合い」です。「互いの主張のぶつかり合い」では、最後まで主張を言い切らせることが大事です。しかし、言葉に詰まって、互いの主張が暴力へと発展することもあります。相手を傷つけるリスクを理解するまで、暴力は大人が止めなければなりません。

言葉でとことん言い合いをして、もう言うことが無くなって、子どもたちの気持ちも落ち着きを取り戻して来たら、「原因は何か」、「何が嫌だったのか」、「どうすればケンカを防げたか」について問いかけます。子どもたち自身にケンカについて考えさせるのです。

主張は、お互いに言い切ったと納得感を得るまで言わせると、達成感を得ることができます。そして、最後は必ず「仲直り」で終わらせます。子どもはケンカと仲直りを繰り返して、何が相手を傷つけてしまうのか、逆にどうすれば相手に嫌なことを止めてもらえるかを学んでいきます。

子どものケンカは、予測できないきっかけではじまります。ケンカを大人が仲裁する時には、「言い切らせること」、「行き過ぎた暴力は断固として止める」、「子ども自身に考えさせる」、「最後は仲直りで終わらせる」という仲裁のルールを持っておくと良いと思います。

人間は10人いれば10通りの主張を持ちます。そこに主張のぶつかり合いは起こるべくして、起こります。ケンカを回避することが正解とは限りません。いつでも譲ることは謙遜ではありません。相手を力ずくで屈服させることは正義ではありません。暴力に頼るものは社会から排除されてしまいます。言葉で相手を傷つけることを好む人は社会から見捨てられます。

幼稚園の子どもたちはケンカを学ぶ途上にいます。適切な仲裁によって、ケンカという機会を学びとして、子どもたち自身を守る力を育てるために、大人は知恵を働かせるのです。

2020年09月18日