誰かの役に立つ経験

子どもは、家族のおまけでもお荷物でもなく、家族の重要な一員です。かつては子どもが家事労働や弟妹の面倒を見たりして、子どもが積極的に家族の中で役割を果たすことがなければ、家庭を運営することは困難でした。

しかし、今日では両親ともに働く家庭が増え、余程意識して機会を与えないと、子どもは家庭の中に出番がありません。要求されるのは「静かにしていること」、「指示に直ぐに従うこと」であることが多く、その意味で家族の役に立つという経験が非常に少ない子どもたちが多くいます。

令和元年版の内閣府の子供・若者白書によると、「日本の若者は諸外国の若者と比べて、自分自身に満足していたり自分には長所があると思ったりするなど、自身を肯定的に捉えている若者の割合が低い傾向にあり、こうした自己肯定感の低さには自分が役に立たないと感じる自己有用感の低さが関わっている点に、諸外国の若者にはみられない日本の若者の独自性がみられる」と分析が記されています。
(令和元年版 子供・若者白書 概要版 https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r01gaiyou/s0_1.html )

「誰かの役に立つ」という経験は、自分をこの世界に固定する錨のようなものです。忙しい大人からすると、子どもに手伝ってもらうよりも自分でやってしまった方が「効率がいい」かもしれません。しかし、お手伝いは子どもにとって「誰かの役に立つ」ことを経験できる、今や貴重な機会です。お手伝いの経験から、自己肯定感が育ちます。是非、意識して子どもにお手伝いの機会を与えて欲しいと思います。

子どもに手伝ってもらうことは、いわば「細々とした家事」で十分です。そういったところで子どもは十分に力を発揮できます。「玄関の靴をそろえる」、「おもちゃを片づける」、「脱いだ服を洗濯籠に入れる」などの小さな仕事がよいでしょう。

子どもにお手伝いを任せるときには、最初にやり方の見本を示し、子どもが始めたらば、思い切って口や手を出すことはやめましょう。幼稚園で遊具を片付ける子どもたちの間で良く起こるのが、遊具を運んでいる子に、他の子が手や口を出すと大抵トラブルになります。任された仕事に口や手を出されることを子どもは嫌います。過剰な口出しや手出しは子どもの達成感を損ないます。

子どもがお手伝いの中で、失敗したり、くじけたりするのも大事な経験です。子どもなりに工夫したり、考えたりしながら、自分の力でお手伝いに対処できると、自分の力に自信を持つことができます。

手伝いをしてくれたなら、その結果に対してではなく、手伝ってくれたことにいつも「ありがとう」を伝えましょう。子どものすることですから、慣れない手伝いであれば、大人から見てまだまだということもあります。しかしまず、「ありがとう。助かった」です。認められることで、子どもの自己肯定感は育ちます。現代では、手伝いの機会を自己肯定感を育てる家庭教育の機会としてより強く意識して子どもに用意することが大事なのでしょう。

2020年09月25日