ものを作る

幼稚園では、ご家庭に協力していただいて空き箱を集めています。子どもたちはそれらを使って自由に工作をしています。今のところ、箱そのものを切ったりして加工することはできず、テープで貼り合わせるところで技術的には留まっています。さらに環境を工夫し、また手本を見せて次の段階へ進めていけたらいいなと思います。

私の祖父は書籍の金文字などを箔押しする工場を家族で営んでいました。そこには手ごろな厚紙がいつも沢山あって、祖父の所に行くとそれらの紙を使っていくらでも工作をすることができました。幼稚園に通っていたころからハサミも糊もカッターナイフも自由に使わせてくれました。家では父がのこぎりの使い方や釘の打ち方を教えてくれました。竹トンボや船の模型など、竹や木を使って無数に作りました。端材を手にして、その形から何を作るか考えて、動く仕掛けを工夫したりしました。今思い出すと、大変に恵まれた環境で育ったのだと感謝しています。

何かを作る経験を通して、知識や技術はもちろん、視野を広げ、成長していく学びが実践的に得られます。一枚の厚紙から何を作るかの正解は一つではありません。どういう手順で作るかも正解はありません。試行錯誤の中で、自分なりのやり方と正解を見つけ出していきます。

忍耐強く試行錯誤できる力は、どんな時代でも重要な力です。物を作り、ミスを発見して、改善し、また作ってみるという一連の体験をします。必要なものが手元になければ、手に入れるために試行錯誤します。そのときには要求や交渉という試行錯誤を経験します。

充実した物を作る経験をするためには、私の祖父や父が与えてくれたように、大人が環境を整える必要があります。

まず場所を用意します。子どもが自由に自分の手で試行錯誤するために、汚してもいいし、散らかしてもいい物を作るための専用の場所を決めておきます。私は、祖父の所では祖父の仕事場の片隅を与えられました。

父は自転車を止めて置ける家の外のスペースを与えてくれて、どこからか端材を集めてくれていました。画材や空き箱、厚紙や折り紙など子どもが材料にできそうなものをいつも与えたスペースに置いておきます。

幼児期の子には、刃物は必ず許可をもらってから使用し、使い終わったら最初に必ず元の場所へ戻すように約束を徹底させましょう。刃物は大人の元で普段は管理することが望ましいです。

そして、子どもが作ることに基本的に口出しをしません。子どもがしようとすることに「それは無理」とか、「この方が上手くいく」といった判断を大人が言うと、作る楽しみは減り、子どもの創造力が萎えてしまいます。自分で好きなようにやらせることが大事です。急かすことも、途中で中断させることも望ましくありません。

出来上がったものについて、その出来の善し悪しも大人は判断しません。大人が出来の善し悪しを判断すると、そこで試行錯誤はゴールを迎えてしまいます。子どもが作品を見せてくれたら「随分一生懸命作ってたね」と物を作ったことを褒め、子どもを満足感にたっぷりと浸らせてください。それから、「どんな工夫をしたのか」、「次は何を作るの?」という試行錯誤を連続させる質問をします。比較するならば、子どもの作った以前の作品と比較してどこが良くなっているかを話すとよいでしょう。

作った子ども自身が満足感を得ると、今度は「もっと上手に」、「もっと沢山」というように、子ども自身が次の目標を立てます。不思議なもので、どんなに苦労して作ったものでも、作った子ども自身が「ここが良くない」、「こうした方がもっといい」と気がつき、やがて作品に不満を持つようになります。そうやって自分自身で何度も修正しながらやり抜く力を発揮していきます。

2020年10月01日