読書のすすめ

「マタイ効果」という言葉があります。聖書のマタイによる福音書25章29節、「だれでも持っている人はさらに与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる」、という言葉になぞらえた、教育効果についての言葉です。

マタイ効果が存在するとされる能力に、「読解力」があります。読解力は、特に最近の学生たちに不足している能力と言われます。読解力は、字が読めるとかいう他の発達に紛れて幼い時には目立ちませんが、年齢とともに読解力の差は大きくなっていきます。

読解力は、文章を読むことで育ちます。本を読むか読まないかです。読書をすればするほど確実に読解力は高まり、さらに高められた読解力が読書への意欲を増します。そのように読解力を増す子どもがいる一方で、読書をしないためにどんどんと理解力が追いつかなくなる子どもがいて、その差はどんどんと拡がっていきます。

本を読むことで、「語彙」も増していきます。私たちの思考は言語と深く結びついています。子どもの自由な発想とか、自由な活動は大切ですが、その土台となる知識の中であればあるほど有利な知識は「語彙」です。語彙が豊かであり、それがどのような文章の中で用いられているかを理解する読解力があれば、新しい知識を得るときのハードルは低くなることは明らかです。

また、読書を通じて子どもの「視野」が拡がります。子どもは「決めつける」ことへ流れやすい思考をしています。「こだわり」と見られる行動は、視野が限定されていることでも生じます。本の中の魅力的なキャラクターや新しい興味を見つけてワクワクした思いを抱きます。読書は想像力の栄養です。

さらに、情緒的な発達も豊かになります。読書量の多い子ども時代を過ごした人は、思いやりや社会貢献といったことに意識が高い傾向が見られるそうです。

ユダヤ人は、迫害の中で、いつ住まいを奪われ権利を奪われるか分からない歴史を生きてきました。その中で、彼らは「現金を得るために手放してもいい財産は家、土地、証券、宝石。最後まで手放してはならないのは本」という意味の格言を伝えています。どこへ行くことになろうとも、どんな貧しさの不幸に襲われても、決して盗まれることがない財産は「知恵」であり、それを育てる本を大切にしてきたのです。

読書は「読み聞かせ」と合わさって相乗的に読解力を育てます。子どもが最初に獲得するのは「聞く力」です。中学生ぐらいまでは読む力よりも聞く力の方が発達しています。ですから、子どもに読書の楽しさを伝えるには、読み聞かせをして物語の面白さに触れさせることもいいことです。また、家庭で大人が読書をする姿を多く見ている子どもは読書が好きになる傾向があります。

時には、子どもと同じ本を呼んで、読書の後に互いの感想や考えを交換したりする時間があれば、思考力や文章力も育ちます。読書を通して刺激を受け、育っていく力は、子どもがどんな将来を生きるとしても、本当に自由に自主的に生きようとするときに、また自分自身で自分の人生をまもるためにも、極めて重要な土台となる力です。

ぜひ、子どもの成長に見合った豊かな読書の経験をもたれることをお勧めします。

2020年10月08日