ごっこ遊び

幼稚園では今「鬼滅の刃」のごっこ遊びが年長・年中の子どもたちの間で流行っています。ごっこ遊びは、幼児期の遊びの中でも、特に重要な遊びです。

ごっこ遊びは、想像力なしには成り立ちません。例えば、憧れのヒーローやヒロインのポーズをとるのは、自分では見えていない自分自身の姿にヒーローやヒロインを重ねる想像力が欠かせません。

目の前に存在しないものを想像し、行為を思い描き、そこにあるものを何かに見立てて広げられていくごっこ遊びの中で想像力は、どんどんと実際の活動へと反映させて遊びを発展させていきます。

ごっこ遊びは、はじめはヒーローなりヒロインのポーズをとっていれば満足します。しかし、ごっこ遊びを重ねると、武器を作ったり、小物を作ったりして、物語の役に浸る劇場型の遊びへと発展します。ごっこ遊びは、没頭すればするほど遊びを変容させていきます。

そして、「ポーズをとる」から「武器などを身に着ける」の間に、「製作」という技術的体験を経験します。その中身も多彩です。最初は「作ってもらう」ことを要求することから始まるでしょう。やがて、自分自身で作る事を始めます。製作のために必要な材料を求め、道具を駆使し、製作物は作るたびに完成度を増していきます。

さらに、ここバラバラに「ポーズをとる」という遊びから、一緒に遊ぶ仲間の中で役回りが決められていきます。それぞれバラバラだった振舞いやセリフが、想像力によってストーリーの中に配置されていきます。自分自身を巧みに用いて役を深めていきます。時にはどういう役をしているのかを説明してくれます。そしてどんなリアクションをすべきかを指導してくれます。一つの劇場が幼稚園に現れてきます。

表現力、会話力、交渉力、語彙力、手先の操作、動きの大きな身体の操作、色彩感覚、物に対する見立て等、極めて多彩な能力が総合的に育まれていきます。しかし大事なことは、子どもは単におもしろいから遊んでいる、という遊びの原点です。

つまり、ごっこ遊びの発展と没頭、それに伴って能力が育まれていくためには、「おもしろさ」が続く環境が最も大事だということです。逆に言えば、ごっこ遊びが充実し発展する保育環境を整えることが重要です。適切な援助をする幼稚園教師、製作に集中できる環境、それらが適切であれば子どもは自分自身で遊びの段階を発展させていきます。ごっこ遊びは、保育環境が適切であるかを探る重要な要素です。

また、ごっこ遊びがヒーローやヒロインの模倣から、自分たちの劇場へと展開していくときには、日常生活の中で様々な物や生物に触れ、多くの他者に接し、いろいろな状況を体験するといった豊かな経験が大切です。

想像力は、それなしには人間的生活は成り立たない程、極めて重要な人間の力です。どんな学習でも想像力なしには成り立ちません。その意味でも、幼児期からのごっこ遊びの意味は極めて重要です。

どうか、「またやってる」とあきれずに、子どもたちのごっこ遊びを見守って欲しいと思います。

2020年11月10日