見立ての世界

子どもの遊びには、「見立て」が欠かせません。この場合の「見立て」というのは、モノを何かになぞらえることです。積み木一つが机になれば、新幹線や車にもなります。

折り紙は、「見立て」の世界です。多くの方が折ったことのある「やっこさん」や「折り鶴」は、見立てが成り立たなければ「やっこ」にも「鶴」にも見えません。見立てのためのモノへの観察力と発想力は大変重要な力です。

モノは遊びをわかりやすく誘導する媒介です。持ち、見立て、使う、作る、身に着ける、といった活動を誘導し、援助してくれます。

子どもの遊びは、はじめは既成のモノを持つことからはじまります。砂場の型抜きや食器などは、子どもに「お料理する」とか「ケーキを作る」といった日常生活の場面を想起させ、再現へと誘導します。同じように電車のおもちゃは子どもの手で操作できる小さなものですが、実際の電車への興味を満たします。

やがて、既成の道具に誘導されるだけでなく、モノを見立てて使うということが始まります。それは手に収まるモノだけでなく、テーブルやベンチがお店になり、滑り台はお城になり、ジャングルジムはお家になります。木登りをすれば、そこは秘密基地になります。教師はヒーローにやられる怪獣にされ、警察に逮捕されるどろぼうにされます。園庭の隅は時に牢屋になり、ダンスを披露するステージに見立てられます。カートはバスや電車になってお友だちを乗せて園庭を周回します。

やがて、自分で遊びに必要なモノを作るようになります。ここでも、見立ては重要な力です。砂で作ったお団子、ケーキ。粘土で作った虫や蛇、クッキー。空き箱を使った乗り物や、カバン、スマートフォン。折り紙や厚紙を使って作るヒーローやヒロインの使う武器、衣装。お面を作ったり、髪飾りを作ったりします。それらは、子どもに教えてもらわないと何なのか分からないことも多くあります。しかし、子どもたちにとっては紛れもなく目的を満たしたモノなのです。

いろいろなモノを作るためには、道具の扱いや材料についての知識が欠かせません。そのために幼稚園でモノを作る教師の姿がモデルとなり、製作の経験が材料についての知識を豊かにします。しかし、それらを駆使して作るものを「見立てる」ことで遊びが次の発展を得ます。

見立ては、一人の子どもの中でだけ起こることではなく、「ごっこ遊び」等を通して他の子と共有することができます。見立てた場所を共有することで、遊びの拠点が構成され、遊びが拡がったり、収束したりして、さらに他の子を遊びへと呼び込むこともあります。

見立ては人の根本的な力であり、幼児期における育ちを促す強い力となります。

2020年11月11日