家族の食卓でディベート

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を食い止めるために、1都3県に再び緊急事態宣言が発出されました。飲食店に対して午後8時以降の営業自粛の要請がされ、午後8時以降の不要不急の外出も控えるように要請されています。
出社しておられたご家族も、テレワークなどの在宅勤務が再び増えることと思います。そうなると、ご家族で一緒に、ご家庭で食事をする機会も多くなるだろうと思います。
幼児期の子どもが一番コミュニケーション力を鍛える場面は、何と言ってもご家族との対話です。そして、家族で一緒する食事時間はもっともリラックスして子どもたちが対話に参加できる時間です。
日本人から見ると、諸外国の人々はコミュニケーション力が高いと感じられることも多いと思います。欧米の人は社交的だからと言う方もありますが、コミュニケーション力は性格ではなくスキルにあたります。内向的な性格の子でも高いコミュニケーション力を持つことができますし、反対に外交的な性格の子でも、コミュニケーションのやり方を知らなければ、人間関係を上手く構築できません。
例えば挨拶を促す時、「きちんと挨拶をしなさい」と教える家庭が多くあります。一方、「笑顔で挨拶をしなさい」と教え、笑顔で挨拶することの大切さを教えている家庭はどれぐらいあるでしょうか。しかし、笑顔一つで人間関係がいかにスムーズに始まるかはお分かりになるだろうと思います。笑顔があれば、多少変な挨拶になっても、人間関係はスムーズに構築できるはずです。求められるきちんとした挨拶の形は、その場のシチュエーションを理解していれば、自分から身につけようとします。
そのように実際に生きたコミュニケーション力を養うために、大きな役割を果たすのは、家族で食事を一緒にする時間です。その時間は単なる栄養補給の時間ではなく、重要な家族や友人や仲間とのコミュニケーションの時間でもあります。人の目を見て話す、人の話を最後まで聞く、共感し、感情を表現し、「はい」と「いいえ」を明確にする、自分の考えを根拠を示して表現するなど、十分な時間をとった食事の時間がそれらを毎日育てていきます。
コミュニケーション力の中で、特に意識してほしいのは「ディベート」の力です。日本語では「討論」と翻訳されるので、「口論」して相手を言い負かすことのように勘違いしてしまいがちです。特に「朝まで~」という番組は、専門家の意見の内容はともかく、ディベートそのもののレベルが非常に低いので、あれは手本になりません。また、本来ディベートの最高峰の場であるはずの国会審議における答弁も、お粗末な感が拭えません。
ディベートは、他者の意見を「尊重し」ながら、自分の考えを「しっかり伝える」というものです。相手を論破することが目的ではありません。ですから、感情的なったり、発言中の相手の言葉を遮るのはマナーをわきまえない下品な行為です。
食事の席は「楽しく」が一番大事です。それには「楽しい雰囲気」というものを守ることが大事です。感情的になって相手を攻撃したり、相手を論破することはできません。さらに、自分を受け入れてくれる家族が、時に笑顔で、時に真剣な顔で、しっかりと自分のことばに耳を傾けてくれるから自分の意見を発言することができるようになります。食事を楽しむ大人の対話を手本として、「人の意見を尊重すること」と「自分の考えをしっかりと表現する」というスキルが育てられます。

2021年01月12日