モラルを育むために

幼稚園で、幼いながらもルールを経験した子どもは、してはならないことをしてしまった時、罪悪感が湧き上がってきます。入園したての頃はともかく、半年以上幼稚園で過ごした子どもは、悪いことをしたという自覚を持っているという前提で向き合う必要があります。
子どもは「咎められる」、「叱られる」、「怒られる」ことにはじめは怖さを感じます。最初は行動にもつながるかもしれません。しかし、やがてそれらは子どもを制御できなくなります。叱られる時間を逃れるために嘘をついたり、言い訳ばかり巧みになり、行動に移れなくなります。話に耳を傾けなくなります。その時間を通過させ、子どもの内に何も残らないという不毛な浪費がはじまります。
子どもは「~はダメ!」という強い言葉や大声を聞くと、固まってしまうことが多いです。それは対処方法がわからない非常事態に遭遇したようなものです。どうすればいいのかわからないのです。そんな状況で話して聞かせても、聞けませんし、子どもの内に残るものはありません。
子どもの内には罪悪感があります。罪悪感というのは人間の行動を改善する時に強い助けとなる感情です。ですから、子どもが望ましくない行動をした時には、禁止するのではなく、できることを伝えるように心がけます。
お片付けをしないで教室に戻ろうとする子を、「あれ?」という顔で見つめるだけで十分な場合が多くあります。それから、「一番に並びたかったのかな?」と穏やかに声をかけてみます。「うん」と頷いてくれたりしたならば、「言ってくれてありがとう」と正直であったことを認めます。それから、「片付けないと、お弁当の後遊べなくなっちゃうね」と理由を伝えてから、その子が今「できること」を伝えます。「それじゃあ、砂場の道具は先生があっちに片付けるから、ボールと縄跳びをお願いするね」と話します。
砂場のシャベルを振り回している子には、「おやー」と声や表情を向けると大抵は罪悪感で止まります。それからシャベルで砂を掘って、「シャベルは振り回すものではなく、砂を掘るもの」とできることを示します。
騒いだら、子どものを見つめて「ひそひそ声でお話ができるね」と言います。ごみを放っていたらば、子どもを見つめて「ゴミはどこに捨てたらいいかな?」と尋ねます。
うなだれたり泣いたりした場合には、背中を抱いたり、さすったりして、その子が感じている強い罪悪感に寄り添います。
子どもの中の居心地の悪い罪悪感に寄り添うことによって、子どもの中に「モラル」が構築されていきます。怒られるからする、という他人を判断基準にして、見られている時にはちゃんとやる、褒められるためにやる、というものではなく、自分を基準として善し悪しを判断し、主体的にする・しないを選ぶことができるようになります。
自分の内に「モラル」を持つことは、主体的に生きるために大変大切なことです。モラルが自分で考え、判断し、行動することを促します。他人任せにせず、「自分でやる」という気持ちを育みます。

2021年01月13日