セルフ・コンパッション

自分自身をケアする方法として「セルフ・コンパッション」というメソッドを知りました。直訳すれば、「自分を思いやること」です。

これはテキサス大学のクリスティン・ネフ(教育心理学者)がまとめたものです。鬱、不安感、完璧主義などを緩和し、満足感や幸福感、好奇心などを高める効果があると言われています。その結果、逆境を跳ね返す「レジリエンス」も強まります。

ネフ自身の体験によると、自閉症の息子が激しい癇癪を公共の場で起こし、周りから非難の目を浴びたときにセルフ・コンパッションの効果を実感したそうです。その時に胸に手を当て、「この難しい状況で、私はよく頑張っている」と自分を思いやることで、穏やかに子どもに接することができ、子どもも落ち着いていったそうです。

セルフ・コンパッションとは、温かい言葉や態度で自分に向き合うことです。周りの視線や言葉に委縮して、自分で自分を否定しては袋小路に追い詰められていきます。しかし、自分で自分を思いやり、励ますことで、周りにも思いやりを向けることができるようになります。

セルフ・コンパッションの方法としては、辛いと感じたときに、自分で自分の身体に触れてみます。自分自身の体温を感じることで、「幸福感」に関わるホルモンであるオキシトシンの分泌量が上がるのだそうです。そして、自分に思いやりをもって話しかけます。「つらいね。でも私は、私にできることをしているよ。大丈夫」とか、「今日もよく頑張ったね」というふうに話しかけます。

逆に自分に話しかけないように避けるべきなのは、「最低だな」とか、「こんなこともできないなんて」、「皆はできているのに、私はできない」、「これじゃあ心配だ」というような自分を否定するような言葉や評価です。

自分に対しては、つい貶めたり、功績を矮小化したり、否定してしまいがちですが、自分自身の気持ちに寄り添って、励ますことを心がけます。

ここまでお読みの方はお気づきのことと思いますが、この「セルフ・コンパッション」は、わたしがお伝えしている子どもへの接し方をそのまま自分自身に向けているものです。自分自身に対することと、子どもや周囲に対することは深く関係しています。

聖書の中でイエス様も「自分を愛するように、あなたの隣人を愛せ」と、自分を愛することと他者を愛することを、分かつことのない一つの愛の教えとして教えてくださっています。聖書の言う「愛する」とは感情ではありません。具体的に「大切にする」行動を伴います。

自分に対して温かく、大らかに、他と比較しないで、気持ちに寄り添い、受け入れることで、子どもに対してもそのようにできます。自分自身が求めている安心や幸福を、子どもは親や教師の体温や言葉の中に求めているのです。まず、自分自身を愛する子のように大切にすることで、自然に子どもにも周囲にも温かく大らかに接することができます。

2021年01月14日