しつけ―繰り返し、待つこと

アメリカの発達心理学者エリク・H・エリクソンは、幼児期の大切な発達課題を「自発的な表現」と考えました。親や先生の顔色を伺いながら、命じられたことをしぶしぶやるのではいけないということです。

例えばこれは「しつけ」を考えるときに大事な点を教えてくれます。「しつけ」は、先人が築き上げてきた価値や文化(この中に生活習慣や挨拶といった礼儀などが含まれます)を教えることです。何をしなければならないか、何をしてはいけないか、その具体的な判断のもとになる言葉と行動を伝えることです。そして、「しつけ」の目標点は、子どもがその伝えられたことを、やがて自発的・意欲的に実行できようになるということです。

では、どのように「しつけ」ればいいのでしょうか。

第一に気を付けたいのは伝える人です。「しつけ」を子どもに伝えることができるのは、子どもに信頼されている人です。大人でも、あの人の言うことなら聞こうとか、この人に言われると正しいとわかってても嫌な気持ちになるとかいうことがありますが、子どもの場合はなおさらです。だから幼児教育の場では「すべては愛着から」というのです。その点で、子どもの両親による「しつけ」が大切ですし、子どもの慕う祖父母や保育者も重要な存在になります。

第二に大切なことは伝え方です。「しつけ」として大切に思うことを、穏やかに、必要に応じて、必要な分だけ、折々に「繰り返し」伝えるということです。

そして第三の重要な点は、子どもが自発的に実行する時を「待つ」ということです。その時が来るまで、繰り返し伝え、手助けするということです。子ども本人がこれをやろうと決め、実行することを待つ中で、子どもの「自分を決める力」が育っていくのです。そこに自発・自立・自律・自主といったことが生きてくるのです。

「しつけ」をする立場の大人にとって最も気を付けたいのが「待つ」ことを意識することだと思います。「待つ」ことができるというのも個人差のある能力です。そこで「しつけ」の上手下手がでてくるのでしょう。

「しつけ」がうまくいかないというときに点検すべきなのは、「性急すぎていないか?」、「感情的な激しさで教えていないか?」という点です。出来るようになるまで待てずに、いらだって「早くしなさい」、「何度言えばわかるの」という言葉が多く出てきます。そして多くの場合こういう言葉は、非常に激しい攻撃的な響きをもって、子どもに威圧的に伝わってしまいます。伝える側があせると、子どもはもっとあせります。お互いが悪循環に陥ります。

「しつけ」に限らず、子どもに何か伝えるときのポイントは「穏やかに」、「繰り返し」、「できるまで待つ」ことです。待つことは、子どもを信頼していることを伝えることになり、子どもへの愛をもっともわかりやすく伝えることにもなるのです。

2018年10月14日