手を使いましょう

子どもが幼児期に主体的に遊びを始めるためには「下準備」が必要です。たとえば、スポーツ選手は試合のために体を鍛え、筋肉を自分のイメージの通りに動かすことで自在に肉体を活用します。

子どもも幼児期に体をたくさん使って遊びます。つまり考え方はスポーツ選手と同じです。違いは、子どもは意識的に必要な準備を選んだり、行ったりできないということです。そこで大人の意識的なサポートが必要になります。もちろんこれは何でもやってあげるということではありません。

幼児期を通して「下準備」として意識されると良い第一のことは、「毎日できるだけたくさん手を使うように習慣づける」ということです。単純なことと思われるかもしれませんが、これは子どもが人として生活習慣を身につける上でも欠かすことのできないほど重要なことです。

西荻学園幼稚園では、お当番として欠席の連絡を園長まで知らせに来てくれます。その際、事務室の扉を開けるのですが、子どもの多くは扉のノブを開けられません。最近は扉を回すノブではなく、レバー式のものが多くなったために、そもそも扉を開けるために「ノブ」を回す必要があることを知りません。そこから教えます。「目で見たノブを手でつかむ」。これが第一段階です。ノブを握ったら、その手を回転させます。これが第2段階です。最後に回転させた状態を維持して手前に引きます。これが第3段階です。そうして初めて扉が開きます。同じことが回すタイプの水道を使う時にも起こります。加減ができないので、水浸しにしてしまうことが続きます。はさみを使ったり、折り紙をしたり、のりを適量つけたり、こういった活動も同じです。これらの動きを完成させるために必要な下準備が、手をたくさん使うということです。

いっそレバー式にしてしまうということも考えました。実は大人にとってはその方が「楽」なのです。しかし、「毎日できるだけたくさん手を使うように習慣づける」という下準備をしっかりして、できることを増やす方が大切だと考えてそのままにしています。

私たちが日々の生活の中でどれだけ手を使っているかを考えてみてください。朝起き上がり、洗顔し、服を着替え、食事を作り、食べます。考えるときも、書いたり、本をめくったり、パソコン、スマートフォンやタブレットを操作したり…と殆ど間断なく手は使われています。

手を使うことが「できることを増やす」ために必要です。できることが増えると、子どもは自信を得て自立していきます。自分から「やりたい」という意欲を抱き、それを実現するための創意工夫が起こります。そのために手をたくさん使って動きを向上させることが大切になります。そしてそれは単に肉体的な面だけでなく、内面においても豊かなものをもたらします。手を使う習慣を普段から積極的に取り入れてほしいと思います。何でもやってあげるのではなく、できることを積極的にさせることです。

2018年10月31日