子どもはやりたがっている

「やってみせて、言って聞かせて、やらせてみて、ほめてやらねば人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」これは山本五十六の言葉と伝えられています。人の成長を考えるときにいつでも思い出すべき、暗唱して心に刻み付けるに足る言葉です。私の経験からも、この言葉の一節のどれかが欠けたときに私自身が人の成長の妨げとなったことを反省させられることがたびたびあります。

幼児期の子どもたちに接していて感心するのは、「できる」ことへの気持ちの強さです。例えば、コップを傾けて水をそそぐ。水道の蛇口をひねって水をバケツに汲んで砂場までこぼさずに運ぶ。砂山をつくって、トンネルを繋げるにはどうしたらいいか。登り棒の上り方。鉄棒で前回りをすること。歯ブラシをつかって歯を磨くこと。手を洗うこと。

大人となった私たちが「ちゃんとやりなさい」、「自分でできるでしょ」の一言で指示してしまいがちな殆どの動きも遊びも、子どもたちは「知らない」のです。私たちには勝手な幻想があって、年齢とともにできることが自動的に増えると何故か思ってしまうのですが、「増える」のではなく子どもが「できるようになりたい」と思って増やしてきたのです。だから、「やってみたい」という要求に十分に応えてもらえなかったことは、うまくできなくて当然です。だからこの「できるようになりたい」と望んでいる子どもたちの気持ちに応えることが幼児教育では非常に重要になります。それではどのようなことに気を付けたらいいでしょうか。

それは、子どもが「自分の目」で見て、なるほど!と「わかって」、自分もやってみようと「やってみて」、自分自身の成果に「満足する」、というプロセスを実現していくことです。このプロセスを大事にすると、単に「できるようになった」というだけでなく、「学んだ」ことになります。つまり、「できた」ということと同時に「学び方」を学ぶことにつながります。

子どもが良く見て、自分で取り組めるような伝え方を考えてみると以下のようになります。

① 教える「うごき(行為)」をできるだけ一つに絞り込み、子どもの注意をそらす余計なものを取り除く。

② 子どもに伝える動作を分析し、各動作を、はっきりと、ゆっくりと、正確に順を追って実行して見せる

③ 難しいところを確認し、特に丁寧に、正確に、ゆっくり、繰り返して、見せる。

④ 見せるときには、言葉を使わない。子どもを「見る」ことに集中させる。

⑤ 伝えるときは言葉に頼らずに、動作を正確に実行して「見せる」ことに集中する。

⑥ 間違いをその都度訂正することは心を怯えさせるので、子どもがやっているときは声をかけない。

⑦ うまくできなかった時は、もう一度、繰り返し、正確な動きを、ゆっくり、丁寧に「見せる」。

⑧ 子どもが自分自身ではじめる自由を与える。

分析すると8項目にもなりましたが、一つ一つは「できる」大人にとっては決して難しいことではありません。むしろ、大人にとっては難しいことではないので子どもがうまくいかないと焦れてしまうのです。そこで子どもから取り上げて間違いを指摘したり、代わりにやってしまいます。けれども、それこそが子どもの「学び」の機会を奪う最大の敵です。大人が「焦れる」と、子どもはうまくできないことを「悪いこと」と感じて、失敗を恐れてやらなくなります。それは一番避けるべきことです。

正確に、ゆっくり、丁寧に、繰り返し、見せる。それに加えるならば「できると信じる」こと。これが大事なのです。

2018年11月07日