大人になるために―必要なものは代替できない

子どものころに十分な教育を受けられなかったとしても、健全な大人として立派に人生を全うした人は限りなくいます。しかし、子どものころに十分に遊んだ経験のないまま大人になり、ひきこもりや、対人恐怖や負い目に過剰なストレスを感じる人が非常に多くなっています。

子どもには、まず母親(母性)、次に父親(父性)、祖父母や兄弟姉妹ら家族、そして友だちや先生たちと交流を豊かに広げ、繰り返すことで生きていくことが大切です。この点は、未だに数学的に置き換えることのできない事柄です。数学的に置き換えられないということは、他のもので代替する手段が質的に「ない」ということです。

子どもたちにとって「遊び」は代替不可能な事柄です。大人は子どもたちに「教えることができる」ということを大きく評価しすぎていないでしょうか。知識や技術が増えることは価値のあることです。しかし遊ぶことに罪悪感を感じさせることは避けるべきです。

子どもの発達に遊びと交流は不可欠です。共感や感動などの人間性の発達に加え、規則や役割、責任、義務、道徳といった社会性の発達に有益な活動です。さらに、友だちとの遊びを十分に体験することで、人を信じる感情や自分を信じる心を育てていきます。

作詞家の阿久悠氏は新聞のエッセイで、子ども時代にやっておかなければならないことを全部すませてからでないと、しっかりした大人になることはできない、と書いておられました。

思春期や青年期を迎えてから気持ちを引き締めて努力しても、簡単にしっかりした大人になれるものではないでしょう。子ども時代にやるべきことをちゃんと経験しておくことが、大人になる前提なのです。

2018年11月15日