対話と自己表現

子どもと話をしていると、明らかに間違った意見を言うことがあります。そのような時に、「それは違うでしょう!」、「ダメね。分からないの?」という言い方は避けた方が良いでしょう。

対話は互いの表現の連鎖です。対話のために幼児期から経験させたいのは表現することに自信を持つことです。子どもが「何を言っても大丈夫」と感じ、どんな意見も馬鹿にされず、真剣に聞いてもらえるという信頼関係を持ち、安心して表現できる機会を多く持つことが大切です。

意見が間違っていた時には、間違いを正す必要はあります。しかし自分の考えを発言したことをまず受け入れます。「あなたの言うことは分かった」と、発言を受け入れます。その上で、「どうしてそう思うのか」と聞いて、子どもの思考過程を聞きます。自分の考えを発言することは間違ったことではありません。それどころか自分を表現できることは極めて重要なことです。それを否定はできません。その上で、別の思考方法を辿るお手伝いをすることで、間違った意見を正すのです。「他に考えられることはない?」、「別のやり方はないかな?」というふうに聞いてみます。さらに子どもが可能な範囲で、「お父さんだったらどうすると思う?」、「先生はうれしいと思うかな?」と考える条件を加えたり減らしたりして導きます。

大切なのは子ども自身が正解に辿り着き、それを発言できることです。そうやって発言者としての自信を高めていきます。また適切に間違いを正すことを経験すれば、自分の意見の否定で傷つくことなく適切な自信を高めることに繋がります。

職場の会議などで、自分の意見を否定されると自分自身の人格が否定されたように感じる人がいます。自分が否定されたと感じることに怯えて意見を言えない、という人がいます。しかし、自分や他人が持つ考えは、あくまで一つの意見であって、それに反対する人がいるのは当たり前です。自分の意見に反対されても、自分自身が否定されたわけではないと受け止められるように、対話による発信と受信の中で、自己表現を重ねて自信を育てることが大切です。最初に戻るようですが、「意見の否定は人格の否定ではない」という姿勢を身につけるためにも、間違った意見に対して「ダメ」という人格否定の言葉で受け止めるのは避けるべきなのです。

こうした丁寧な対話を繰り返すことで、子どもは会話の中ですぐに怒ったり、人の話を遮ったりということが少なくなります。自制心や柔軟性、共感、社会性が育っていきます。

2019年02月15日