環境を作る

幼児教育と聞くと、具体的に何をしていると思われるでしょうか。外で子どもと一緒に遊んだり、一緒に歌ったり、工作を一緒に作ったり、お遊戯をしたり…そんな子どもと一緒に過ごす場面を思い浮かべることでしょう。これはとても大切な幼児教育の現場です。しかし一部でしかありません。重要ですが全てではありません。むしろ、子どもと一緒に過ごす以前の時間に大事なものがあります。それは「環境を作る」ということです。
子どもは、言われてやることにたいした喜びは感じません。私たちは「こういう遊びに誘ったら、きっと喜んで遊ぶぞ」、と思って子どもを誘いますが、往々にしてこの期待は裏切られます。大人から見ると何が楽しいのやらさっぱり分からないことでも、明らかに子どもが自分で選んで行動している時には喜びを感じています。
ですから子どもが自分で選んで行動できるように環境を作ることが、幼児教育では極めて重要なことになります。これは何もおおげさな遊具や調度を整えるということではありません。子どもが「やりたい」と思ったときに、自分でそれを始めるための環境を作るということです。
例えば、「工作をする」時に、幼稚園の先生たちは沢山話し合って材料を準備しています。画用紙をどのようなサイズで用意するのか。飾りをつけるときに使うのは糊か、テープか。仮にテープの方が丈夫に作れても、子どもがまだ自分で扱えないのであれば、糊を使って作る方法を模索します。あるいは、子どもに挑戦させるためにどんな「挑戦する工程」を用意するのか。準備できるものに子どもを合わせるのではなく、子どもに合わせて適切な準備をします。子どもたちの集中力は長くはありません。興味をもって集中してできる間に工作が完成できるように、学びと経験から先生たちは準備します。そして、子どもが自分から興味を持てるように、一つの作品のために絵本を何日も前から読み聞かせたりして、子どもが自分から取り組めるようにあらゆる環境を整えます。大好きな子どもたちの「自分でできた」という育ちの喜びのためです。いくら自分でできることがいいといっても、何も準備しないでただ子どもたちをそこにいさせればいいというのは放任であって、教育ではありません。もちろん「自分で選びなさい」、「自分でやりなさい」と口で言ってもその通りにはなりません。
以前、行政の方がこども園になることを勧めに来られた時に、教師たちの準備の場所を指して、「幼稚園時間の子どもたちが帰ったら、幼稚園の先生たちは仕事がお終いですから、保育士に場所を明け渡してください」と言った言葉を聞いて、絶対にこども園にはならないと決めました。幼稚園教師の仕事も保育士の仕事も、その実態を全く知らない人間が作っている制度だと分かったからです。
子どもが興味があるもの、夢中になれそうなものを、自分で選べるように配置すること。子どものレベルに合わせて準備すること。こういったことが環境を作ることになります。幼児教育の現場で見せるものではありませんが、むしろ多くの時間を費やしている欠かせない極めて重要なことなのです。

2019年05月14日