幼児教育のPDCAサイクル?

幼稚園教育要領の改訂に伴い、その解説も多く出版されました。文部科学省も解説を公開しています。その中に「カリキュラム・マネジメント」という言葉が登場しました。

カリキュラム・マネジメントについて文部科学省も含め一般にこのように解説されています。「カリキュラム・マネジメントとは、幼稚園の教育目標の実現に向けて、子どもの地域でや家庭での生活の実態を踏まえ、教育課程を編成、実施、評価し、その上で改善を図るという、教育課程の一連のPDCAサイクルを計画的・組織的に実施していくこと」(「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」無藤隆編著、東洋館出版社)。

ここで問題と感じているのが、幼稚園の教育についてのPDCAサイクルを実施すべきという理解です。Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)というサイクルとして運営されるのがPDCAサイクルです。

幼稚園組織運営をPDCAサイクルで評価するという提言は、まだ理解できます(それですらも、近年の幼稚園を巡る環境の変化に対応するには不適切となった、と私は考えています)。しかしPDCAで毎日の保育を回せというのはナンセンスです。もちろん結果を振り返り、改善を継続的に行うことは大切です。例えば「ヒヤリハット」のような改善計画や避難訓練のような「幼児の意志」を無視してでも従わせなければならない計画に対してPDCAサイクルは有効でしょう。しかしPDCAサイクルは、「計画」をもとに評価改善するサイクルであって、刻一刻と変化し成長する子どもの姿や取り巻く環境を「後追い」しかできないということです。逆に「先回り」をした計画を実施するというなら、結局は旧来の「一斉型保育」にしか対応できないと言わざるを得ません。子どもを計画通りに動かせたかどうかが評価対象になり、改善の主たる面になってしまうからです。これは、どちらの場合も子どもの主体的活動のサポーターとしての役割を果たせないことになってしまいます。

幼稚園教師が直面するのは、刻一刻と変化する幼児期の子どもの成長欲求です。そこで求められるのは、子どもの姿を計画に合わせて強制することではありません。不安定で不確実で複雑で曖昧な状況です。そこで教師に求められるのは状況を観察し、直感的に状況判断を下すということです。大切なのは、行動の前の瞬時の状況判断です。この状況判断に、「幼稚園の教育目標や理念を共有する」教師の主体的判断が反映します。ここが大切です。

「計画通りにいかない」ことこそ、幼児期の子どもの世界なのです。遊びの面白さとはつまるところ、計画を離れた楽しさであり、これまで自分を定めていた「自分ルール」の逸脱なのです。そのとき本当に大切なのは、「ルールは変更しても良い」、ということです。そのとき「跳躍」と呼ぶべき幼児期の瞬発的かつ爆発的成長が見られるのです。跳躍した発想が、創造を促し、新しい発見やアイデアを生み出し、新しい価値や意味を子どもの内に生み出していくのです。幼児教育の場とは、子どもたちの成長欲求の発する「ルール変更」の要求に出会うところです。子どもたちの革命の場です。

そこで、改訂された幼稚園教育要領の実施に当たって有効なのは、今日ある考え方から導き出すならばPDCAサイクルではなく、OODAの考え方だと言えます。Observation(観察)→Orientation(判断)→Decision(意思決定)→Action(行動)という流れの考え方です。教師にしっかりと幼児教育者としての理念が浸透していることが前提ですが、この過程の中で教師の中に「何のために教師がいるのか」、「どこに向かっていくのか」という自分の主体性への問いが生まれることが大切なのだと思います。そこで、直感的な保育方法の創出が起こるのです。

2018年09月18日