小さな声でありがとう

子どもを褒めて育てる、という教育論が一頃流行りました。これは提唱された時は「褒めるだけ」の教育論ではなかったのですが、マスコミによって取り上げられている間に、いつの間にか「褒めるだけ」の極端なテクニックとして紹介されるようになり、弊害が問題視されるようになりました。幼少期から何かをすると褒められるという環境に置かれると、大人になってからも「褒められる」という外発的動機がなければ動けない人間になってしまうのです。子どもを都合よく「褒める」ことでコントロールできるというテクニックになってしまったのです。確かにこれは危険です。

 では、どうすればいいのでしょうか。橋井健司という園長先生がその著書(『世界基準の幼稚園』光文社)の中でこの「褒めて育てる」ことを取り上げてその危険性に触れて、自分は「そっとその子に近づいて『ありがとう』『先生、助かった』と小さな声で感謝の気持ちを伝えるようにしています。間違っても『えら~い!』と大げさにほめたり、みんなの前でその子のおこないを発表したりはしません」と書いていました。これは見倣うべき対応だと思います。特に「そっとその子に近づいて」というところがいいのです。園長先生とその子だけの小さな世界が満たされます。

 この方の著書を読んでいただくのが良いと思いますが、私なりに要約してお伝えすると、「えらい」とほめることと、「ありがとう」と感謝を伝えることの違いは、行動の結果が自分の利益になるか、他人への貢献となるかの違いです。この考え方に私も賛成します。自分の行いが誰かの役に立ったという、あの独特の充実感は子どもの内に自尊心を育てます。ぜひお子さんにそっと近づいて、小さな声で「ありがとう」、「助かった」と言ってみてください。

2018年09月20日