生活習慣を伝える

着替えや片付け、食事やトイレといった基本的な生活習慣は、教えてやらせようとすると、なかなか身につきません。子どもは大好きな愛着を持つ大人のあらゆることを真似しようとします。ですから、大人の方が意識してお手本になれば、子どもは必要なことを身に着けていきます。子どもは必ず「自分のことは自分でやりたい」という強い意識を持つ時期があります。
お手本となるときには、「ゆっくり、正確に動く」ことを心がけます。そして動作は動作のみ、言葉は言葉のみで伝えるようにします。動作を言葉で説明しながら教えてしまいがちですが、基本的に人間は言葉の解釈と動作の解釈を同時にできません。動作を見せるときには声をかけないこと、言葉を聞いてほしい時には言葉以外の刺激を極力除くことがコツです。いっぺんに全部を伝えようとせず、細かく動作を区切って、子どもの「できた!」という経験や「分かった」という気持ちをコツコツと重ねることも有効な伝え方です。
生活習慣を身に着けるということは、身体面で言えば多様な動きを獲得するということです。幼児期の先の成長に備えた土台は、基本的な生活習慣の中に最も多彩に含まれています。それは生きるための動作だからです。人間的で社会的な生活習慣を身に着けることは、その後を生きるための土台を獲得するということに他なりません。正しく身体を使うことで、正しい身体の使い方を獲得し、次のより高度な身体活動の獲得への備えをすることができます。
知恵も力も、人間は現在到達しているところからしか、次の段階へと出発できません。今立っているところからジャンプして先に進む子もいれば、一歩一歩確実に歩みを進める子もいます。それは個性ですが、いずれにせよ今現在到達しているところを出発点にするしかないのです。現在の到達点を無視した手本や言葉は「雑音」でしかありません。ですから目先の「できる」「できない」にこだわり他児と比較して焦ることは意味がありません。
できないのは、いつもやってもらってきたので自分でする必要を理解していないのかもしれません。語彙が少なくて伝えたことが十分に受け取れないのかもしれません。生活習慣を実現するための筋肉の動きを再現する神経系の発達を待たないといけないのかもしれません。単純に筋力がないのかもしれません。「できない」ことの中に道しるべがあります。
ですから、子どもの育ちに向き合って、段階にあわせた手本を示すことが大人の重要な役割です。しかし、それを親が見守り、育ちのタイミングを逃さずに手本を示すということは、簡単なことではありません。そのために社会が準備した環境の一つが幼稚園です。
幼稚園に通うということは、子どもの成長を一緒に見てくれる人が増えるということです。不安なところがあったら、意識して教師に伝えたり、お願いしてみてください。そして一緒に大切な子どもがどう育っているのかを知り、大人自身の習慣についての考えや、関わり方を共有しながら、子どもにとってより良い手本となれれば、それはとても良いことだと思います。

2020年01月07日