器を大きくする

先日、「親の役割」について記しました。読み返して一番大事なことが欠けていることに気がつきました。
子どもたちは毎日たくさんのものに触れて、遊んで、挑戦して、知識や情報、社会のルール、他の人とのコミュニケーション等の生きていくための力を身につけます。子どもたちが身につける生きていくための力を水にたとえると、子どもたち水を入れる器にあたります。
子どもの育ちを考えるときに、私たちは子どもたちに与える「水」について意識を向け、いかに水を子どもたちという器に注ぐかに力をいれてしまいがちです。しかし、本当に最も力を入れるべきことは、どうやって器を大きく育てるか、ということです。
器が小さいままでは、どれほど良質な水(習い事、知育、知識等)を一生懸命に、心を込めて注いでも溢れてしまいます。器が小さいままでは、また汲んできて注いでも溢れてしまいます。水を変えても、器が小さいままならば溢れてしまいます。せっかく良質な水を見つけ与えているのに溢れさせる子どもに、イライラしてくたびれてしまうかもしれません。水を与えても受け止められない子どもの方が「おかしい」、「普通じゃない」と感じてしまうかもしれません。
親の役割の第一は子どもの器を大きく育てることです。器が大きく育っていけば、フィルターとしての役割を果たした親の選んだ良い水を「もっと、もっと」と受け止めていきます。子どもには極めて強い育ちの欲求がありますから、子ども自身が自分の器をいっぱいにしようと自分自身で水を汲んできます。自分で必要なものを選んで、自分でそそぎます。「やりたい」「知りたい」という興味関心をもって身につけるものは、習得が圧倒的に早く、習熟も深くなります。悪いものに触れた時も、大海のように水を満たした器であれば、問題にはなりません。
それでは、子どもの器とは何でしょうか。大きく二つあります。一つは「体」に関心を向けることです。人間は「心」「体」が別々に存在していません。心と体の両方があって人間なのです。心と体が互いに影響を与えています。ですから、体が成長することで心も成長します。体が疲れていると、心も疲れます。ですから、良い食事や睡眠を与え、生活のリズムを整えることで器を育てます。
もう一つは「心」です。ただ「心」では漠然としていますので、最近では「自己肯定感」と呼ばれ、知っている方も多いと思います。自己肯定感とは、文字通り、自分を肯定しどんな自分も受け入れている状態のことです。また自分の存在を価値のあるものだという気持ち(自尊感情)を同時に持ちます。そして、自己肯定感が大きく育つほど、相手も受け入れることができるようになっていきます。人からの信頼や好感も高まり、逆境に強くなり、冷静に判断できるようになります。そのため、悩みや不安で落ち込むことが少なくなり、途中で挫折することもなくなっていきます。つまり、器が大きくなるのです。

2020年03月11日