表情を見せる大切さ

新型コロナウイルス感染症の感染予防のために幼稚園の教職員はずっとマスクをして保育をしています。子どもの安全のために必要なことですが、幼児教育に関わる者としては、先生たちが子どもとコミュニケーションをとる際に、目元しか見えないことに不安を感じることがあります。
日本小児科医会は「乳幼児のマスク着用には危険があります。特に2歳未満の子どもでは、気をつけましょう」と乳幼児のマスク着用の考え方を示しています。
http://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=117
また、保育現場にいると幼児期の3~6歳の子どもであっても、マスクを着用し続けることは発達上のリスクもあって困難だと感じます。一方で、先生たちは自分自身が感染源にならないように常にマスクを着用して保育を行うことが当然となっています。先日、感染者が確認された保育所で、保育士が常にマスクをしていたことから「濃厚接触者なし」と保健所が判断したことが行政のホームページで報告されていました。
そのような中で、こういった事例が報告されました。保育所の乳児クラスでのことです。その保育所でも保育士は常にマスクをして子どもたちに接していました。乳児クラスでマスクをした保育士が離乳食を食べさせていると、食べ物をかまずに飲み込んでしまう子が出てきたというのです。そこで、保育士がマスクを外して「かむ」姿の見本を見せたところ、子どもたちは保育者の口元の動きを真似て、上手に食べる姿が見られたそうです。
教師や保育士が乳幼児にマスクをして接することについての問題は、新型コロナウイルス感染症以前から課題を指摘されてきたものです。現在はそのようなことはありませんが、マスクをして保育を行うことを禁止する幼稚園もありました。子どもの安全と心身の健全な発達の両面を同時に保障できるかが問われてきた事例の一つが「マスク問題」なのです。
乳幼児期の子どもにとって「表情」は大事な情報です。子どもは顔が好きで、大人の表情をよく見ています。大人の顔に触るのが好きな子もいます。大きな興味を持っているのです。そこからその人を認識し、感情を読み取り、覚えていくと言われています。その時に、大人がマスクをしていると、表情が読み取れずに、コミュニケーションが難しくなることが指摘されてきました。
子どもは、顔の中でも比較的「目」を見る傾向があると言われているので、できるだけ目だけで表情を表現しようと努力している先生もいるそうです。西荻学園幼稚園では、透明なマウスシールドやフェイスシールドを使用して、ずっとマスクを着用して子どもと関わることを避けるように工夫しています。どんな方法が安全と健全な成長のバランスの中で最適なのかを模索しています。マスク問題を通して、先生が子どもとコミュニケーションをする上で、顔の表情を通して伝えられる関りが大切なことを再認識させられています。
どうやって子どもの安全と心身の健全な発達の両面を同時に保障するかが、毎日問われています。

2020年08月20日