教育は時代で変わる

時代の変化と共に、教育の目標は変わっていきます。価値観が変わるからです。例えば私が学生時代を過ごした頃には、「誰もができることを、誰もができるようにする」という教育の平等が重視されていました。その中で優秀とされた子は、「誰もができることを、誰よりも優れてできる」ことが求められました。成績は「知識量」「問題処理の速さ」「正確さ」で測られていました。教科書や参考書に書いてることを全て知識として記憶し、テストで高得点を取る子が「優秀」とされていました。そうした人を社会は求め、幸せな人生を与えていました。
しかし、社会の仕組みは変わっています。当然、価値観の変化は「優れた人間」「社会に求められる人間」を変化させていきます。しかし、教育はその変化に目を背けてきたのか、それとも知っていて抵抗してきたのか、相変わらず「みんな同じ」という価値観の中に泥で足をとらわれているかのように停滞していました。新型コロナウイルス感染症は、そのような教育の古びた価値観に支配されている事実を剥き出しにしました。
新型コロナウイルス感染症で学校が休校となったとき、課題として問われたことの一つは、教育のICTの導入でした。識者が「全ての子どもに”平等”な教育を受けさせるためにICT化を進めなければならない」「一人一台タブレットを配給しなければならない」といった意見を表明しました。しかし、これらの意見が実は何十年も前の「平等」思想を古典として引用していることに気が付きました。そして、それら支持した人々は、「学校がないと、子どもが勉強をしない」「休校で子どもの学習が遅れる」「受験にも配慮が必要だ」と言うのです。
一方で、私が注目したのは、休校を幸いとして学力を圧倒的に伸ばし、あるいは全く違う分野で力を発揮している子どもたちがいたことでした。彼らは言うのです。「学校がリモートで授業をしてくれなくて良かった」「これで余計な時間を学校で使わずに勉強できる」「これでやりたいことをやれる」。
過激なことを言いますが、もしも今後大学が卒業重視の体制に移行するということなく、現在の状況で受験の試験科目を減らしたり、出題範囲を狭めたりする学校は教育機関として失格です。それが大学であったら、なおさらです。教育と人道主義と商業主義を見分けられない程度の知性しかないか、単なる「商売」の手段として教育を選んでいるだけだからです。そもそも英知の先端たる大学が、大量の学生を集めることで金銭を集めるというビジネスモデルから離れられないのは問題です。だから「配慮」という名の安売りを始めるのです。本当に学ぶ力を持った子は学校の配慮などそもそも期待しません。常に問うのは、「自分自身」の力だからです。
社会の仕組みは大きく変わりました。「誰もができることを、誰もができるように」という中で求められたことはテクノロジー(AI、SNS等の技術)が肩代わりしてくれるようになりました。これはAIが人々にとって代わるという課題ではなくて、そういった技術を「当たり前」とした上で人間に求められるものが変わっていることを意味します。AIが人間に取って代わることはできません。しかし、人間が変わることは要求されます。テレワークを経験する中で、極端なことを言えば、人は組織に所属する必要はなく、得意分野と熱意さえあれば、仕事をして食べていけるということを感じた方も多いのではないでしょうか。
そのように社会の仕組みが変わったということは、つまり「子育てにおいて心配すべきポイントが変わった」ということに、教育者は気が付かなければなりません。これまでの心配事の重心は「周りの子と”比べて”、自分の子にできないことや足りないことがあること」でした。しかし今や「周りと同じ」であることは必ずしも価値にはなりません。むしろ、「あなたは何ができるのか?」を問われた時に自分の強みを発揮できるかどうかです。
言い換えると「苦手なことはあるけれど、誰にも負けたくないものを持っている」ということの方が大事です。もちろんその得意分野で世界一であればすごいでしょうが、それはいつの時代もただ一人です。だからこそ「誰にも負けたくない」というものを自分の強みとして社会で発揮できることが求められます。それは、自分自身を持っているということです。経験や価値観に基づいて、自分なりの価値を持っているということです。知識量はまだ未熟でも、ゆっくりでも、間違っていると思うなら何度もやり直して、自分の持っているツール(知識・技術・得意)を駆使して自分なりの答えを出せることが求められています。
「みんな同じ」はもはや教育の重要課題ではありません。だから、「同じ」であることを求める教育環境も変わらざるを得ません。自分を偽らせず、無理な背伸びを要求せず、ありのままの自分が出せることが教育環境となる時代が来ているのです。すでにそのように世界は変わっているのです。

2020年08月26日