根拠のない自信をたっぷり育てましょう

以前も紹介した児童精神科医の佐々木正美先生は「子どもを育てるときにもっとも大切なことは、子どもの心の内に、生きていくために必要な『根拠のない自信』をたっぷりと作ってあげることです」と記しています(佐々木正美著『はじまりは愛着から』福音館)。

「根拠のない自信」とは何のことだろうと訝しく思われるかもしれませんが、幼児教育の現場にいる者には、佐々木先生の言われることがとてもよくわかります。「根拠のない自信」の育っている子は、遊びが大好きで、そして上手です。「やってみたい」という思いがいつもあって、様々なことに挑戦しています。そして親に対して見事な「甘えん坊」です。言い換えるなら、幼児期を幼児として生き抜いているという意味で、「子どもらしい」のです。

「根拠のない自信」は第一段階として乳児期の「基本的信頼感」を意味します。やってほしいことを誰かにやってもらうことで、その相手を信じる力が育ちます。乳児期はやってほしいという要求ばかりです。母親や父親が要求を聞き入れてあげることで、人を信じる力がしっかりと身につきます。それは次に幼児期に人を信頼し、ひいては自分自身を信じていくことに繋がっていきます。

このように言うと「過保護」になりはしないかと心配されるかもしれません。しかし心配は無用です。「過保護」というのは、子どもが要求していないものを親の都合や満足を優先して過剰に押し付け、結果として子どもの生きる力が育つことを邪魔してしまうことです。ここで申し上げているのは、子どもの要求に応える、ということです。そのためには少なくとも0~2歳までの乳児期は子どもが信じる存在(ほとんどの場合は母親)が要求を常に聞けるように傍にいることが大事になります。いないということは、そのまま要求が無視されるということに繋がります。もちろん100%一緒にいて要求に応えることはできるはずがありません。しかし要求に応えようとすることこそ、乳児期の子の親の頑張りどころです。親が「自分は過保護ではないか」と思うくらいに子どもの要求に付き合うくらいがいいのです。

全面的に受容される時期が守られ、受容された経験があればあるほど、人間は自立していきます。

以前、幼稚園で本当に手がかかり、教師を悩ませたお子さんのお母さまから小学校での様子をお聞きしたときに、こんなことを言ってくださいました。「この子は、大人をはじめから信じています。(小学校の)先生のこともはなから信じていて、それが他の子と違うように感じるんです。」

大人は、「手のかからない子」を求めます。そんな子を「いい子」と判断します。これは教師も陥る罠です。しかしそれは大人にとって楽で、育てやすいというだけで決して「いい子」であるのではありません。かえって乳幼児期に大人に手をかけさせる子の方が、内に「根拠のない自信」を豊かに育んだ子、人を信じ、自分自身を信じる力を育んだ子であることが多いのです。

2018年10月03日