読み聞かせ

心を落ち着かせ、言語能力や想像力や情緒を育てる、と聞くと大げさなようですが、これらの成長に「読み聞かせ」はとても力を発揮します。

読み聞かせをするとき、子どもの脳のどこが活発になっているかを調べた研究を紹介した本があります(『読み聞かせは心の脳に届く』 泰羅雅登著 くもん出版)。それによると、脳の深部にある感情や意欲、本能に関係する部分が活性化していたそうです。

感情や意欲、本能に関係するところが活発になるということは、それらが育まれるということです。感情を「教える」というのは、なかなか難しいことですが、人間には「共感」という素晴らしい能力が与えられています。「読み聞かせ」は「共感」を呼び起こしやすい方法です。物語と読み手に共感して、嬉しい、楽しい、悲しい、怖いといった感情がわかる子どもに育てます。感情の成長が意欲や道徳感にもつながっています。

もちろん、読み聞かせは子どもの言葉の発達を促します。また、聞く力を育てます。親子の間で読み聞かせが行われると、「共感」によって親子の気持ちが通い、落ち着いた関係を構築しやすくなります。

読み聞かせのコツをいくつか紹介します。

①タイミングを決めて日課にする
幼稚園では、降園前の10~15分に先生が読み聞かせをしています。年少であれば文字より絵の多い絵本からはじめて、少しずつストーリーが分かりやすいもの、主人公の感情表現が豊かな絵本へと進んでいきます。年中や年長の頃には、「ロボットカミィ」や「エルマーと竜」等の毎日続きを読み聞かせる物語にしています。ご家庭であれば、夕食の後や寝る前など読み聞かせのタイミングを決めて日課とされると良いと思います。その際、子どもの聞きたがっている本を選ぶことができれば、子どもに選ばせてあげると良いと思います。

②静かな環境を心がける
周りに音や光があると子どもの集中が妨げられますので、テレビや音楽を消して読み聞かせをしましょう。子どもの疲れや気分によって集中が続かないこともありますが、「聞きなさい」と強要したり、中断しておしまいにしてしまわずに、決めたところを最後までいつもと同じように読んであげます。幼稚園でも集中が続かず、歩き回ったり、寝転んだりする子もいます。読み聞かせの前に約束として、「部屋から出ないこと」を伝えておけば、聞いていないように見えても、聞いていることが多いのです。

③ゆっくり、はっきり
物語の登場人物を必ずしも演じる必要はありません。普段通りの声で読み聞かせをすれば十分です。子どもが聞いた言葉を味わい、想像したりできるように、早口ではなくゆっくり、はっきりと読みます。

④子どもが聞きたがる本を何度でも
子どもは気に入った本を何度でも繰り返し聞きたがります。大人でもそうですが、子どもは特に何度でも読んで、その度に新しい発見や経験をします。常に新しい本を読む必要はありません。子どもが気に入っていたら、何度でも読んであげてください。

⑤学習効果を目的にしない
読み聞かせをしていくうちに、文字に興味を覚えて、自分で読んでみたいと思うようになります。うれしい成長ですが、無理をして読めない字を覚えさせようとしない方が良いと思います。せっかく本の楽しさを知ったのですから、本を楽しんでもらうことを目的として、「これ何て読むの?」と聞かれたら、その都度教えてあげればよいのです。「まず、字が読めるように」と「あいうえお表」の学習を優先すると、本を楽しめなくなります。楽しい時が、最も知識の吸収も盛んな時です。

⑥いつまで読み聞かせをするか
読み聞かせは、文字を十分に読めない子ども時代のことと思われるかもしれませんが、小学校卒業まで日課として継続しても、問題ではありませんし、むしろ良い効果があるようです。最初の話に戻りますが、読み聞かせは「感情」を育てます。感情が十分に育つことで、他者の心情を慮ることができます。また、言葉の世界はまだまだ大きく広がっています。新しい言葉や表現に触れて、新しい興味や関心を広げるきっかけにもなります。

これは子どもに読み聞かせをせがまれる立場になってみて感じたことですが、読み聞かせは、子どもが育つだけでなく、声を出す大人の方にも成長をもたらしてくれる気がします。聞いている子どもの表情の中に、その子の秘めた興味が見えて驚かされることも度々あります。ぜひ、読み聞かせを親子で楽しんでいただきたいと思います。

2020年09月16日