子どもとの距離感

新型コロナウイルス感染症に脅かされる中で、「同調圧力」という言葉がマスコミで繰り返されました。地域や職場での合意形成に対して、少数者に多数派に同調することを、脅迫を含めた様々な手段で強要し、合意へ誘導することを指す言葉です。

同調圧力とは本質的に違いますが、子どもは大人への「同意」を求める圧力に常にさらされています。

自分の子どもに対して、親は「こんな子であってほしい」という理想を持ちます。それは尊いことなのですが、その理想から子どもが外れたと感じると、言葉や態度を通して子どもに圧力を感じさせることがあります。勿論親は子どもが大切で心配だからそういった行動をとってしまうのですが、親としては励ましたり、助けたりしているつもりでも、子どもにとっては親の理想の圧力を感じることになります。

子どもの気持ちを考えずに突き放し、「そんなことで泣いちゃだめ」、「その程度で怒っちゃだめ」、「それでいいと思っているの?」、「あなたお兄ちゃん(お姉ちゃん)だから譲りなさい」、「許してあげないとだめ」、「できて当たり前」、「さっきはやるって約束したでしょ」、「あなたはきっとできるはず」等、正論としてこういった言葉を押しつけられれば、子どもは親の思いに同調できない自分の感情や存在そのものに罪悪感を感じます。子どもはそうした圧力を言葉として整理し、跳ね返し、感情を表す術が未熟です。そうして本当の気持ちを隠すか、いずれ言葉にできなかった感情を爆発させてしまいます。

反対に、親が子どもとの距離を近く持ちすぎて、あれもこれも代わってやってしまうというのも問題です。「この子はまだできないから代わってやってあげる」と考えて、子どもの試練や不快や苦しみを先回りして取り除き、防いでしまいます。そのために「できるようになる」ための経験が奪われ、子ども自身が自分の能力に気づき、それを育む機会が失われてしまいます。子ども自身の自尊感情は育ちにくくなります。自分を尊べないために、他者を尊重することも未熟なままとなります。

大人と子どもの距離感というのは難しいものです。「近過ぎず、放し過ぎず」の加減を考える意識を持つことが大事なのですが、そのための大人の側の子どもに対する見守り方を工夫します。少なくとも、子どもを自在に扱うような「魔法の言葉」に頼るような思考はやめましょう。

ベターなのは、「時間をかけて子ども自身の問題を探る」ことです。子どもが何かを嫌がってどうしてもできない時に、なぜ嫌なのか、子どもの気持ちや思い、考えをじっくりと引き出します。気持ちの問題なのか、まだできない発達段階にあるのか、やり方が分からないのか、知らないのか、求められていることが理解できていないのか。子どもの「現在」にじっくりと寄り添い、一緒に考えることで、子どもに共感することを目指します。

その時に、「できない」、「いや」という子どもの気持ちに、「まだ、できないんだね」、「今は、いやなんだね」という風に、出来るようになるための道のりの途中にいるということに意識を向けます。失敗を恐れているようなら、失敗は成功のための道のりの途中であることを意識します。

また、他の子はもちろん、大人自身の子ども時代とも比べないことが大事です。子どもは気持ちが前向きの時もあれば、ほんの些細なきっかけで後ろ向きになることもあります。子どもの気持ちは複雑に動いています。成長も一人ひとり違います。自分が成功してきたことだから、自分の子どもも同じレールの上を進むと安全だと考えたり、自分がかなえられなかったことを子どもに託したい気持ちは大変良く分かります。しかし、子ども自身の幸せは、子ども自身が自分の人生の中で見つけ、自分自身をかけて手に入れるべきものです。大人の成功体験が必ずしも未来の子どもの幸せを保障しないことを大人はわきまえていなければなりません。

私たちは「近過ぎず、放ち過ぎず」に子どもとの距離感を大切にしながら、子どもが自分自身で生きていく力を得るための、ひと時のパートナー、共感者、サポーターです。そして、将来、子ども自身が自分の力で、自分自身の幸せのために歩き出した時に、その歩みを祝福する存在でありたいと思います。

2020年10月09日