体験と達成の共有

新型コロナウイルス感染症への対策を取りながら、今年も運動会を開催することができました。運動会のようにずっと練習を重ねてきて、本番を達成感をもって終わった後、幼稚園の子どもたちに見られるのが、手を繋いだり、抱っこやおんぶといったことを求めることです。

これは甘えですが、子どもたちにとって大事な「甘え」です。決して赤ちゃんに戻ったわけではありません。大きなことを成し遂げた自分を受け止め、満足を共有して欲しいのです。運動会が終わったあとは、そんな子に「一番何が楽しかった?」とか「~~って難しくなかった?どれぐらい練習したの?」と質問をします。その会話は、長い時間ではありません。しかし、抱っこやおんぶを終えて、満足した様子で遊びに走っていきます。暫くの間そうした行動が続く子もいます。

褒めて伸ばすという子育ての大切さが多くの人に認知されるようになりました。子どもの自己肯定感を育むために、褒めることはとても大切なことです。

しかし必ず良い影響があるという訳ではありません。「すごいね!」とか「えらいね!」といったワンフレーズは特に要注意です。

子どもが必要とする「褒める」とは、ご褒美ではありません。それは、努力や達成の共有です。大人であれ子どもであれ、承認欲求があります。褒めるということは、その欲求への応答です。承認欲求とは、他人から認められたいという思いです。それは、結果を評価されることよりも、努力し、達成した満足を誰かと共有できたときに満たされます。つまり、存在そのものを受け止められることは、そのまま「褒める」ということに他ならないのです。

褒め方には色々ありますが、避けた方が良いのは、具体的な内容のない「すごいね」というようなワンフレーズでの褒め方や、性格や外見や能力を褒める褒め方です。「かわいいね」とか「頭いいね」といった評価です。

子どもの具体的な経験に興味を持たず、結果だけを評価されると、子どもは褒美として「すごいね」といったフレーズを目的とするようになります。言い換えると、子どもにとって努力や過程は重要ではないので、良い結果の時は報告し、悪い時は隠すということも起こります。さらに、外部から褒められることでしか自分の価値を見出すことができなくなります。

また、褒められることを目的として、良い結果だけを求めるようになると、最初は興味関心をもって取り組んでいた活動や挑戦に楽しさを感じなくなります。そのため、楽しかった活動を止めてしまうこともあります。

出来ることだけをするということは、新しいことに挑戦しなくなるということです。失敗を恐れて、失敗を避けるために挑戦をためらうようになります。かといって、いつでも「すごい!すごい!」と言われていては、努力して達成するという意義を知ることができません。

「すごい!」と心から思ったときには「すごい!」と言っても良いのです。ただ、それだけにせず、絵であれば具体的にどこがすごいと思ったのか、「いろんな色を使って虹みたいに綺麗だと思う」とか、「お父さんの口がにっこりしていて、おとうさんの嬉しい気持ちが伝わってくるみたい」とかいう言葉を添えます。

絵を描いた努力や過程を共有する時に、言葉がなかなか出てこないこともあろうと思います。子どもの頑張りや努力を見ていないのに、「頑張って描いたんだね」というのは、誠実ではありません。そういう時は、子どもに質問をします。「~ちゃんは、どこが一番好き?」とか質問をして、子どもが達成したことにどんな思いを持っているのかを聞きます。その際も、〇×ではなく子どもが自分の頑張りを振り返ることができるような質問が望ましいです。ささやかなことですが、質問に「一番」という言葉をつけると漠然とした質問を具体的な質問へとすることができます。

子どもが何かを達成したとき求めているのは、本来評価ではなく、大好きな人とそれを共有することです。

2020年10月21日