叱るというコミュニケーション

子どもを叱ることは、子どもに社会生活に適応する必要な知識や技術を教えるためです。罰によって子どもの行動をコントロールすることが目的ではありません。

それだけに、叱るというのは難しいことです。褒めることよりも難しいと思います。子ども特有のこだわりや、頑固、癇癪を起こしている時には、何を言って聞いてくれず、イライラしてしまって感情的な対応をしてしまうこともあるでしょう。

子どもを叱ることについて、前もって気持ちの準備をしておくことが大事だと思います。「自分は子どもを信じているから、叱らなければならない」存在であることを受け止めて心構えを準備する必要があります。子どもを叱るということは、子どもを信じているからできることです。子どもを信じられなくなった時に、諦めてしまいます。叱ることから罰を与えることに目的が移ってしまいます。

叱る時の基本的な心構えは褒める時と似ています。

①「だめ」、「違う」、「やめて」をできるだけ使わない。

道路に飛び出すなどの危険な状況では「だめ!」と強く言ってまず行動を止める必要があります。しかし、叱るというのは、行動を止めることが目的ではなく、子どもが好ましくない行動を改めて社会に適応する知識や技術を得させることが目的です。「だめ」「違う」「やめて」という言葉に対して脳は脅威を感じると言われています。そうすると、身を守るために反発して、話を聞く状態ではなくなってしまいます。

叱る時の導入は、何をしていたのか(目に見える事実)をそのまま伝えて、子ども自身が本来やりたかった気持ちを受け入れます。「そうしたかったのね」とか「気持ちはわかるよ」というような気持ちの肯定は、子どもの我儘を野放しにするという意味ではありません。子どもと話をする環境を準備することが目的です。

②結果よりも、過程に目を向ける。

褒める時も叱る時も、子どもの人格や能力、欠点や短所を責めることは避けます。実際に起こしてしまった事柄を前にして、そこに至る過程と努力、やり方に不足や間違いはなかったかを、子どもと一緒に振り返って検証します。何が原因で好ましくない行動に繋がったのかを子どもと確認し、共有します。

③好ましくない行動の理由を伝える。

子どもに、自分の行動が、子ども自身や他者にとって、どんな影響を与えたのかということを、社会的適応としての規範や道徳に焦点を当てて具体的に説明します。具体的というのは、子どもの行動と結果との因果関係を理解させるということです。例えば「お友だちの許可なくおもちゃをとった」→「お友だちが泣いた」ということの「→」を明確にします。これは子どもに好ましくない行動をとらないように事前に注意を与える時にも、大事なことです。

④気持ちを正直に伝える。

好ましくない行動に対する気持ちを正直に伝えます。大人が子どもに対する気持ちを正直に示すことは、子どもが自己中心から、他者との共存へと、人間関係に関わる力を育てることに繋がります。そして、最後に「提案」をしてみます。「おもちゃを順番に使える方法をみんなで考えてみよう」というものです。

叱るというのは感情をぶつけて突き放すことではなく、子どもとの重要なコミュニケーション(交流)なのです。いきなり上手にはできません。だからこそ、前もって心構えをもっておくことは大事なのです。

2020年10月30日