失敗と成功のベクトル

「あなたはやればできる子だよ」という言葉は、あなたのことを信じているよ、というメッセージのように思われます。しかし、実際は「今はできていない」というメッセージになります。子どもを認めているようで、実は認めていない言葉になります。

 今はできていないという子には、「やればできるようになるよ」、「まずは、やってみよう」というような、「今はできていない」というところから出発を促す言葉をかけると良いと思います。子どもに受け取って欲しいメッセージは「挑戦することに一番意味がある」ということです。

 できれば伝えない方が良いメッセージは、成功や結果に価値があるというメッセージです。「やればできる」という言葉は、挑戦を促すようで、実際に求めているのは成功と結果です。
 
 大人として仕事をする際には、プロセスよりも結果です。それが報酬を受け取る仕事の責任です。プロセスをどんなに頑張っても報酬には繋がりません。成功しなければならないのです。

 しかし、子どもの育ちの中での挑戦には、本質的に「失敗」はありません。何故ならすべてが同じ方向を向いて繋がっているからです。成功と結果に縛られざるを得ない大人の目からは、子どもの挑戦は無駄が多く、失敗続きに見えます。しかし、失敗続きでもいいのです。実際に、いつまでたっても成功しないことはいくらもあります。いい結果を出せなくて、放り出すこともあるでしょう。

 子どもが成功と結果に捕らえられてしまったしまった時には、「やってみよう。成長しているよ。工夫してみよう」と伝えることが大切です。失敗は終着点ではなく、一過程なのだと受け取ることができれば、また取り組むことができます。失敗と成功のベクトルは同じ方向を向いています。

 子どもは、「自分はできる」という自信を持っています。子どもにはもともと「やってみたい」という強い力があります。その力がそのまま発揮できるように言葉と環境を与えればよいのです。

 子どもに「やってみたい」という強い欲求があっても、言葉をかけることに意味がなくなるわけではありません。「やってみたい」という思いを認められ、それが大切なことだと伝えてくれる言葉は、子どもたち心を支えます。子どもたちの価値の順位を、成功と結果をよりも挑戦を上位に考えるようになります。

 この価値の変化は、自分を客観視するメタ認知を育てることにも繋がります。そして、成功と結果を求められるようになった時に、成功と結果へと繋がる「プロセス」を創造し、改良し、仕事の質を向上させる力に繋がります。

2020年11月09日