よいところは伝えましょう

人間には、「感情」、「思考」、「行動」という三つの要素があり、それらを一致させようとする心理があると聞きました。思考が行動に直接影響し、感情が思考を支配するというような影響があるということになります。

幼児期の子どもは、集中して事柄に取り組む事が苦手なものです。その様子は、落ち着きがなく見えます。その時に、「あなたは、落ち着きがない」、「何度言っても、できない」と言われ続けると、「自分は落ち着きがない」、「自分は何度言われてもできない」と思考し、それに感情も行動も一致させてしまうということが起こります。つまり、本物の「落ち着きのない人」、「何度言ってもできない人」になってしまいます。

逆に、なかなか集中できた場面が見られなくても、10秒程度のほんの短い時間であっても集中していたら、「今、すごい集中していたね」と声をかけると、集中する人として自分の感情と思考と行動を一致させるようになるということです。

全く集中する時がない子というのはいません。好きなことをする時には多くの子が集中しています。子どもに影響力のある人から「夢中になって工作をしていたね。集中する力があるんだね」と言われると、「自分には集中する力がある」という理解から、本当に集中できる子へと、理解と行動を一致させていきます。はじめは数秒の集中も、少しずつ長く、そして多彩な場面で集中力を発揮できるようになります。

以前、どうしても怖くて鉄棒の前回りができない子がいました。しかし、本人はできるようになりたいと思っていたようで、たびたび「見ていて」、「手伝って」と言われました。「もう少しで出来そうだけど、〇〇ちゃんは、どうしてできないんだと思う?」と聞くと、「怖いんだよ!」と言いました。そこで「怖いのに、挑戦してたんだ!〇〇ちゃんには、勇気があるんだね」と言いました。「もうここまで出来てるから、あとちょっとの勇気だね。できると私は思うよ」と声を掛けて、その日は終わりました。

その後、一週間も経ない頃でした。ふと見たら、その子が鉄棒で前回りをしていました。近づくと、「もう怖くない」と言っていました。ほんのちょっとでも「できる」と思うと挑戦しがんばるので、「ほんのちょっとの勇気」でできると理解した子が、実際の行動に勇気ある自分を一致させ、出来てしまったのです。

今は9割できないことでも、1割できていたら、その良い所を伝えてあげると、良いイメージへと子どもが自分を押し出すとても力強い励ましになります。

大人は子どものできないこと、悪いことを指摘することが多くなってしまいがちですが、今はほんの僅かであっても、よい行動が見られたら、そのよいところを伝えてあげるほうが、「できない」ことを指摘されるよりも改善ははるかに早いです。

2020年11月16日