ある日突然に力が出ます

昔から、スポーツの秋、芸術の秋、食欲の秋等々、秋は私たちを様々な意味で豊かにしてくれる季節です。夏休みとは違った様々なことをお子さまと一緒に体験される機会を持たれることだろうと思います。

子どもの興味や力は、いつどこで開花するかは分かりません。それまで見向きもしなかった様子だったのに、ある日突然のめり込んでいくということが起こります。幼稚園でもそうした姿を見ることがよくあります。

お絵描きに全く興味を示さなかった子が、マーブリングやデカルコマニーを経験して絵の具に夢中になるということがあります。あるいは、これまでは幼稚園が用意してきた画材を利用していたけれども、年長になって「自分の」画材を持つようになったら、俄然熱心に取り組むようになったということもあります。体操の時間はつまらなそうにしている子が、園庭遊びに飛び出すと真っ先に鉄棒に向かっていって前回りや逆上がりに黙々と一人で挑戦することがあります。大人が良かれと思って準備したものがある時には関心なさそうに見えたのに、ずいぶん後になって、自分から要求し、夢中になって取り組むようになるということはよくある光景です。まるで想定していなかった子が、どの子よりも興味を示して独占して取り組み始めるということも起こります。

大人の側は、その場で「興味なさそう」、「この子には向かないようだ」と子どもの個性を決めてしまいがちです。そうしなければ「やってられない」気分になります。しかし、幼稚園で子どもたちの成長を見守っていて思うのは、子どもの興味や力がいつ開花するか予想がつかないし、子どもの得意・不得意は実際には誰にも分らないということです。大人ができることは、この「いつ」「どこで」「何を」花開かせるか分からないもののために、「たくさんの機会を準備する」ことしかありません。そして、子どもが我を忘れてのめり込む対象に出会ったなら、それを継続できるように環境を守ってあげることが大人の役目です。

子どもの伸びる力は、何事も吸収していく力が強い幼児期に「幅広い原体験」を得、それらが相互に作用しあって生まれます。

運動についても、動きの多様性が幼児期の運動の課題ですから、単一のスポーツをさせるより、幼児期には遊びを通して「こんな動きもできるんだ」という様々な種類の動きを幅広く経験させる方が大事なことです。のちに一つのスポーツにのめり込んだ時に、それが地力として成長を支えます。

幼児期は、繰り返し練習させるようなドリル的な教育よりも、違う種類のものを沢山経験させる方が、将来良い影響を与えると感じています。そもそも、どんなに心を尽くして準備をして様々な体験を提供しても、幼児期に得るものよりも遥かに大きく多様な世界がこの後の人生に待っているのです。幼児期の姿から、「この子は人づきあいが苦手」、「この子はスポーツが苦手」などと個性を決めつけるのはおかしなことです。「『今は』お友だちとお話しするのが苦手のようですね」、「『今は』サッカーよりもお部屋で工作をしている方が好きな様子です」、こんなふうに幼稚園の先生たちは子どもの成長をとらえます。

今年の秋も沢山の原体験をされますように。そこに何一つ無意味なものや無駄な時間はありません。

2018年10月20日