幼児期の課題―「愛着形成」

 幼児期の愛着形成は、その後の成長に大きな影響を与えます。特に人が自発的な動機で物事を始められるかどうかに深く影響を与えると言われています。自発的な動機を持たない人間は、外部から動機を与えられないと動けないということです。いわゆる「指示待ち人間」を思い描いていただければよいと思います。

 「愛着」はボウルビィ(Bowlby.j.)によって提唱された概念です。子どもはある特定の養育者(多くは母親)との間に親密な関係を維持しなければ、社会的、心理的な問題を抱えるようになる、というものです。子どもはたった一人の養育者(父親には申し訳ありませんが、殆どの場合母親です)を心の拠り所として、その人との間に愛着を形成することで、課題に挑戦する意欲が湧いてくるのだと言います。たった一人の養育者に対して、子どもは「自分は無条件で愛されているか」、「誰よりも優先して庇護されているか」を常に推し量るのです。その条件が満たされないと、子どもは成長する中で他者への関心を正しく抱けず、さらに熱心にたった一人の養育者の関心を引くことに傾くために、新しい課題に挑戦する意志が湧いてこないのです。自発的な動機が芽吹かないのです。

 「愛着」を作るための子どもの努力は生後6か月頃から始まり2歳頃まで活発に現れます。その間、養育者の注意を引くために泣いたり、微笑んだり、声を出したり、身振りを示したり、しがみついたり、後ろを追いかけたり、聞き分けのない態度をとったり、わざと嫌いと言ってみたり、様々な行動を通して養育者が自分に関心をもって傍にいるのかどうかを確認します。私の見てきた幼稚園の子どもたちは、まさしくこのような行動を取ります。このような行動によって「愛」を求める子どもに養育者が応えるというやり取りの中で「愛着」は形成されます。この形成のタイムリミットが「6歳頃まで」と言われるのです。

 日本には、「つの付くまでは膝の上」という言葉があります。ひとつ、ふたつ、みっつ、と歳を数えて「九つ」(9歳)までは子どもの求めに応えて膝の上に座らせてあげなさい、という意味の言葉です。6歳どころか9歳までかけて大事に育てるのが「愛着」だと理解されていたのです。明治維新の頃、まだ江戸を訪れた外国人は、子どもたちの求めに大人が喜んで応えて膝の上に座らせ、子どもたちが幸福を感じてのびのびと安心して遊んでいる姿を見たとき、「ここは楽園だ」と本国に報告したそうです。

 今の時代の流れは、子ども自身が選んだ「たった一人の養育者」から、あまりにも早く子どもを引き離そうとしています。福祉は今を満足させ、依存させることが目的ではなく、福祉によって幸福な未来を獲得し、自立的自発的な人生を生きることが目的であるはずです。そうであるならば、乳幼児期の福祉とは愛着形成を親子が安心して行える環境を整えることです。

 幼稚園まではお子さんとの関りを増やすことを考えてください。あせって自立させる必要などないのです。愛着形成が十分にされれば、子どもは安心して親元から離れて遊びまわる姿を見せてくれます。むしろ、愛着形成が不十分な時期に刺激を与えようとして習い事を始めるというのは、私自身はお勧めしません。それは愛着形成後の次のステップです。まず幼稚園の頃までは愛着形成を十分にするべきです。

2018年09月10日