人の間で生きる

「人間」の文字が表すように、私たちは人の間で生きています。たくさんの人とのかかわりを求める人も、少ない人との深い交流を求める人など、様々な人がいます。しかしどんな人でも他者との関係を通して自分の存在を実感します。人との交流を失って生きるのはつらいものです。そこで、子どもたちが人と交流して生きることに喜びを感じる力を育んでいくために大切なことを考えてみたいと思います。

幼稚園でも、遊んでいる子どもたちの輪の中になかなか加われない子がいます。親としては、そのような子どもに対して不安を感じられることもあるでしょう。しかし、ほとんどの場合心配はいりません。子どもは本来、信頼する人、安心できる人にしか話しかけませんし、一緒にいたいと思うことはありません。まず親や祖父母、幼稚園の先生たちなどに自分の意思や望むことを聞き入れてもらうことで、安心して話すことができるようになります。その後に、同年代の子どもたちとも話せるようになります。

このときに大切なことについて、児童精神科医の佐々木正美先生は、子ども言うことを「聞くこと」と「聞き入れること」とは別だということを言われています(『はじまりは愛着から』佐々木正美著、福音館)。「子どもが話しかけてきたら、何でもうなずいて聞くように心がけてください。親にとって都合の悪いことを言っても、それを頭ごなしに否定するような態度はけっしてとってはいけません。できるだけ穏やかな表情や言葉遣いで、お母さんはそうは思わない、そういうことは好きではない、と丁寧に伝えましょう」(同書58ページ)親や祖父母その次に先生と、少しずつ「思った事を素直に話しても大丈夫」と安心感を得ていけば、やがて友だちとなる同年代の子どもたちにもかかわっていけます。

子どもは親や先生、その他の大人から学ぶだけでなく、それ以上に近い年齢の子どもと学び合うことが重要です。それがさらに沢山の多彩な個性を持つ友だちと交流し、教え、教えられる機会をどれだけ持てたかという「量」が重要です。この点は、子どもの育ちの興味深い点なのですが、「質」より「量」ということが重要なことが沢山あります。いわゆる「親友」という関係は、幼児期・少年期を経て人間関係を成長させたところで得るものです。むしろ多彩な「量」が、遊びやおしゃべりを通して知識や経験や感情を数多く子どもたちに得させます。それが周りの人からの期待に応えていこうとする(例えばお手伝いを喜んでする等)自発的な活動を促します。

現代ではこういった子ども同士の交流は、大人が意識して大切にしてやらなければならないでしょう。大人から学ぶだけでは、子どもの心を動かせないことが確かにあるのです。それは友だちと共有する時間の中で与えられるものなのです。大人は子どもに、友だちの大切さを伝えることを怠ってはならないと思います。そのために、自分自身が誰かの良い「友」でありたいものです。

2018年11月13日