言葉を先取りしない

言葉は主語や代名詞が省略されても通じてしまうことが多くあります。会話言葉というのは構造がかなり曖昧でも通じてしまいます。しかし、幼い時はできるだけ曖昧な言葉を使わない、使わせないという方が良いようです。

幼稚園で子どもが先生に「紙!」と叫ぶ場面があります。先生はすぐに「お絵描きするために白い紙が欲しいと言っている」と察します。しかし、「紙?紙が何?」と聞き返します。子どもは「かーみー!」と繰り返します。けれども「かーみー、って何のこと?」と返します。すると「とって!」、「何を?」、「紙!」、「どうするの?」…、と察しの悪い受け答えをします。子どもの単語が出そろったぐらいに、「紙を取って欲しいの?」と聞きます。「そうだよ!」「それじゃあ、どう言えばいいのかな?」「紙をください」となります。

 察しの悪い会話は、聞き返せば成立します。
 「みんな持ってるから買って!」-「みんなって誰?」
 「あれ、ちょうだい」-「あれって何のこと?」
 「幼稚園楽しかった」-「べつに」-「じゃあ、つまらなかったのね」
 「一緒に行く?」-「どっちでも」-「じゃあ、行かないでいいわね」

大人が察しの悪い人となって聞き返し、子どもの言葉を促すことで、子どもは言葉を「文章」に組み立てなければなりません。文章を作るということは、自分の思考を形にする作業です。曖昧なものをきちんとした言葉へと落とし込み表現することで思考する経験が得られます。

一方で、大人が子どもに言葉をかけるときも、「ちゃんとしなさい」とか「しっかりやりなさい」とかいう指示の内容が曖昧な言葉は使わないように心がけた方が良いでしょう。言葉で伝えるのであれば、何をしたら「ちゃんとする」のか、どういうことが「しっかりしている」ことなのかをきちんと伝えるのです。

子どもは結構めんどくさがりです。察してもらうのが当然といった「王子様」や「お姫様」になりやすいです。大人は察しが良く、文章が成立していなくても子ども要求を理解します。「ママ!」と言われただけで、手袋を渡してあげたり、「ない!」と怒鳴られて、カバンを渡してあげたりといった場面を幼稚園で見かけるのですが、察しの悪い大人になって子どもに文章を組み立てさせてみてください。きちんと言葉で説明させることで思考を具体化し、また具体的なことを言葉という概念に落とし込む経験となります。副次的に忍耐力や集中力も必要とされるでしょう。

そのうち察しの悪い様子で大人に聞き返されると、子どもが大人の意図を察して、きちんとした文章で話すように自分から言い直すようになります。

2019年01月21日