不安の強い子

子どもたちと接していると、その中には人一倍不安になりやすい子や緊張しやすい子、引っ込み思案な子がいます。
「不安」とは何でしょうか。心理学では、不安は将来の脅威を予測してそれに備えるものであるとされます。その時の予測があまり具体的ではないことが不安の特徴です。「よくわからないけど不安」というのが、不安の現れ方です。こういった不安が続くと、不安の理由がなくても、「不安な状況が起きるかもしれない」と予測して、不安の状態が起こります。
不安によく似ていて、不安と同時に起こることが多いのが「焦り」です。焦りの気持ちが強い時には、「何かをしないといけない気がする。だけどどうしたらいいのかわからない」と感じています。
また、不安と似ていますが異なっているものとして「恐怖」があります。恐怖は不安と異なり、具体的で、現実的で、差し迫った脅威に対する反応です。「注射が怖い」「高いところが怖い」「蛇が怖い」「虫が怖い」といったように、はっきりとした物事に対して起こってくる反応を「恐怖」といいます。
こうした不安や焦り、恐怖は心だけでなく、身体にも影響が現れます。不安や焦り、恐怖の気持ちがあると、胸がどきどきして、息苦しくなったり、気持ちが悪くなったり、筋肉がこわばったり、その場から逃げ出してしまうこともあります。このように身体に影響が出ることで、不安や焦り、恐怖がますます強くなることもあります。
子どもたちの不安には、周囲から見て分かりやすいものと分かりにくいものと両方あります。本人が「心配だ」「怖い」と説明できれば、それが一番分かりやすいのですが、幼児はうまく説明できないことが多いでしょう。しかし、その場ではっきりと固まってしまうとか、行動するのを嫌がる、その場から離れようとするなどの不安や恐怖を示す行動があると周囲は気づくことができます。
しかし、静かに目立たない仕方で不安や恐怖に耐えてしまう子もいます。不安を感じたときに、急におしゃべりになったり、落ち着かなくなったり、羽目を外してはしゃぎだすこともあります。こうした不安の表現は、自分自身に置き換えると「そういうこともある」と気づけるのですが、子どもの行動を見た中ではなかなかそれに気づけないものです。
このような不安は少なければ少ないほど、人生は楽しく、良いものになるのでしょうか。もちろんそんなことはありません。一切の不安や恐怖が無くなってしまったら、人間は極めて危険な状況に気づくことができません。忘れ物が増えたり、怪我をすることが増え、病気にもかかりやすくなるでしょう。人との関係で失敗をしたり、犯罪被害に遭う可能性も高まります。
不安は、人間が正しく自分を守り、日々の生活を安全に送るために欠かせないものです。しかし、不安が強すぎるとかえって生活しづらくなってしまいます。特に不安や恐怖が強くなる傾向のある子とどのように関わればよいでしょうか。
失敗を繰り返したり、不快な思いにさらされ過ぎたり、怖い思いを重ねたりといった「過ぎた」環境を変えることが大事です。そのためには、子どもの得意なことと苦手なこと、今どこまでできるのか、どんなものを好んでどんなものを嫌いなのかを把握することが必要になります。難しすぎる課題を与えたり、慣れさせるつもりで不快な感覚を与えたり、失敗したときに怒られて怖い思いをするといったことが重なり過ぎることを避けます。
もう一つ、子どもが先の見通しをもつことができる状況を準備することも不安を減らす助けになります。次に何が起こるのか、次に何をすることを期待されているのか、うまくいかないときに誰がどのように助けてくれるのか。こういったことが子どもに十分に「伝わっている」と安心して活動に取り組むことができます。
不安の強い子に接するときに、大人は何とかして不安をなくしてあげようと思い、不安さえなければ上手くいくのにと思ってしまいがちです。結果として不安材料そのものを取り除いてしまうこともあります。しかし、不安をなくすということで取り組むとなかなか上手くいきません。それは、不安になるのには理由があって、しかもその不安は役に立つことが多いからです。不安は不安のまま抱えて挑戦できるということが望ましいことです。不安を無くすことを目標にすると、子どもは不安だから「回避」するということを身に着けてしまいます。本当に問題となるのは不安だから行動を制限し、挑戦を失ってくことです。
挑戦を回避することを減らすためには、「成功したら褒める」のではなく、大人が願っているのは「やり始めること」や「やり続けること」だということを子どもに実感してもらうのです。そのためには、子どもが何かに取り組み始めたとき、取り組み続けている時にこそ励ましの声をかけ、喜びをあらわします。そして、達成したときにはむしろあっさりとした声をかけ、本人が自分で感じている達成感や満足感に身を委ねさせるということが必要なこともあります。
そして、大人も失敗する。でも平気な顔でもう一度挑戦するし、挑戦していると成功することがある。失敗しても平気なんだということを、子ども自身の世界の中に受け取ってもらえると、さらに良いと思います。
参考「不安の強い子どもたち」吉川徹(『発達教育』2018年4月号特集)

2020年08月25日