自分を主人公にして育つ

幼児期半ばまでの子どもの大きな特徴は、「自分が主人公」という生き方です。この「自分が主人公」という生き方が、心身非常に大きな影響を与え、成長を力強く引っ張っていきます。

例えば運動という面では、自分の意志の通りに体を動かして目的を達成しようとします。この時期の運動には特徴があるといわれます。

・ありとあらゆる動き方を身につけようとする
・どう動けばいいか、に強い関心を持ち、人の動きを真剣に見ている
・動き方を身につけるために精一杯努力する

これは大変貴重な時間です。一生に一回だけ人間が全力を出し切ることを惜しまないという珍しい時期なのです。その原動力となっているのが「自分が主人公」という生き方です。不思議なことに。この時期を過ぎたら、人間は力を倹約してなるべく「楽をしたい」と願い、動かないですむように工夫をはじめます。「怠ける」ことを優先するようになるのです。

このことは、子どもの自尊心の育ちを考える上でも、大変に重要なファクターです。幼児期の子どもは、全力で主人公として人生を生きているのです。そして自分を主人公としてサポートしてくれる人に愛着を抱きます。その人の関心を得るために懸命に呼びかけてきます。「見てて!」と。

これはストーリーを話せるようになると、更に拍車がかかります。自分の話を聞くように、他の子の話しを聞いていた先生の顔をつかんでグイっと自分の方に向かせたりします。それは結果として、文章構成と読解の能力を育むことにつながります。

この時期にしっかりと人生の主人公として見守られてきた子は、非常に強かな自尊心を育てると共に、自分から場の中心をあえて譲るという協調をやがて獲得します。しっかりと主人公として「大切に」されてきた子は、幼児期の終わりには、「~は○○ちゃんの方がよく似合うから、私はいい」、「○○くんの方が上手にできるから、僕は~の方をしてあげる」というような発言が聞かれるようになります。

この発言は、卑屈な発言ではありません。「自分が主人公」であることをしっかりと生きてきたからこそ、どこに自分の居場所をもっても自分らしくいられる安心感を持っている人間の発言です。これは自分一人で達成できない課題に出会ったときに、自分の役割を明確に自覚し、協力を得て課題を達成するという極めて高度な社会性の発現です。

人類の進歩は一人の天才によって刺激をあることはありますが、それが社会全体を動かす文明・文化の進歩へとつながるのは、実はこの高度な社会性の継続にかかっていると、私は考えています。

2018年10月16日